研究課題/領域番号 |
23656029
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
荻野 俊郎 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70361871)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | グラフェン / サファイア / 界面水 / ラマン散乱 / 走査プローブ顕微鏡 |
研究概要 |
本研究の目的は、原子一層という完全な二次元物質であるグラフェンにおいて、その原子ネットワーク構造に全く欠陥を導入することなく表面にナノスケールでデザインされた物性を付与し、パターン化し、グラフェン機能を高機能化する新しい技術体系を構築することである。グラフェンの物性制御は、官能基による表面の修飾や、バンドギャップを開くためのナノリボン形成など、グラフェン骨格に何らかの損傷を与えるものであった。本研究では、グラフェンを貼り合わせる基板の物理的・化学的性質によって、グラフェンの強固な原子骨格を完全に保存しつつ、様々な性質を局所的に付与する機能集積化への新しいアプローチを実証するものである。 本年度は、グラフェンの電子物性に及ぼす基板とグラフェン界面の水の効果を明らかにし、グラフェンの物性が界面物質によって制御可能なことを示した。実験では、様々な湿度のもとでグラフェンをサファイア基板に転写し、ラマンスペクトルを測定した。界面の水層は、走査プローブ顕微鏡により可視化でき、その厚さは層構造を示す。また、界面の水はグラフェンにホールドーピングし、ラマンスペクトルのグラフェン由来の信号のピーク位置を変化させる。さらに、異なる面方位のサファイア、クォーツ、Si酸化膜の表面にグラフェンを貼り合わせ、ラマンスペクトルを測定した。その結果、基板表面の親水性とラマンスペクトルの相関が得られ、界面水のホールドーピング効果がここでも実証された。 以上のように、本年度、界面の水の存在とグラフェン物性に及ぼす効果を体系的に明らかにし、界面によるグラフェンの物性制御の可能性を明瞭に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
23年度はグラフェンと基板の界面に閉じ込められた水層がグラフェンの物性に及ぼす効果を明らかにし、裏面の性質によるグラフェンの物性制御が可能なことを明瞭に示すことができた。まず、グラフェンと基板の界面に閉じ込められた水層を、原子間力顕微鏡を用いて明瞭に観察することができた。この水の挙動の観察により、界面の水の被覆率を算出することができた。さらに、ラマン分光により、水によるドーピング効果を調べ、界面水の厚さとラマン信号シフトの関係を明確にし、グラフェン裏面によるホールドーピングの実証を行った。さらに、各種の面方位のサファイア、クォーツ、Si上の非晶質熱酸化膜などの基板にグラフェンを貼りあわせ、ラマン分光により系統的に裏面水層の影響を明らかにした。また、別の実験として、直接酸化物表面に貼りあわせた単層グラフェン表面上と数層グラフェン表面上における金ナノ粒子の挙動を観察し、微粒子の成長過程に明確に違いがあることも発見した。 以上のように、23年度にグラフェンの炭素ネットワークを破壊することなく物性を制御できることを示すことができた。この制御には、ラマン分光スペクトルに現れる電子的性質や、金ナノ粒子の成長に現れる表面での原子の拡散過程など、様々な現象がかかわる。したがって、「炭素骨格を破壊することなく物性制御を図る」という当初目的に向け。計画以上の進展と認められる。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の実験により、グラフェンと基板の界面の性質がグラフェン裏面の性質により制御できることが明らかとなった。しかし、23年度の制御は基板の性質により決定される水層の厚さを通したものであり、デバイス応用には適さない。 24年度は、水層より安定な固体基板によってグラフェンの骨格を維持しつつ物性制御をおこなう方法を開拓する。すでに、酸化物固体表面のステップ配列などの構造制御を開拓してきており、さらに本研究の代表者の研究室で発見した化学ドメインの制御についても研究の蓄積を行ってきている。これらの表面構造制御技術を駆使して、安定なグラフェン表面の物性制御を図る。特に重要なのは電気的機能の発現である。表面の物理的構造と化学的性質のパターンニングなどにより、グラフェン骨格を維持したままpn接合の実現を図る。また、基板のストライプパターンによってグラフェンをカッティングすることなく異方性を付与し、安定したエッジを持つグラフェンナノワイヤの形成可能性を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験設備は既存のものを使うので、研究費はグラフェン、基板、ガス、薬品、理化学用品などの消耗品が主体となる。また、最終年度であるので、成果の発信のための学会参加費と旅費に使用する。同時に、学会誌への投稿も必要であり、投稿費にも使用する。
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