原子一層という完全な二次元物質であるグラフェンにおいて、その原子ネットワーク構造に全く欠陥を導入することなく表面にナノスケールでデザインされた物性を付与し、グラフェンにデバイス機能を高集積化する新しい技術体系を構築することを目的とする。本研究では、グラフェンを貼りあわせる基板の物理的・化学的性質によって、グラフェンの強固な原子骨格を完全に保存しつつ、様々な性質を局所的に付与する機能集積化への新しいアプローチを実証するものである。 グラフェンの電子デバイス応用において最も本質的な課題は、スイッチングデバイス実現に不可欠なバンドギャップ形成である。単層グラフェンにおけるこれまでの提案は、ナノリボンやナノメッシュ形成など、グラフェンのカッティングを伴うものであった。本研究では、ポーラスアルミナを基板とし、グラフェンの貼り合わせだけで周期歪を導入し、バンドギャップを付与する方法が実現可能かどうかを検証した。ポーラスアルミナは従来用いられてきた陽極酸化によって形成し、貼り合わせたグラフェン形状を原子間力顕微鏡により観察した結果、ポーラスアルミナの規則的ナノ細孔に依存した変形が確認できた。また、ラマン分光においてグラフェン特有の信号に歪由来のピーク波数シフトが観測され、確かに歪が導入されていることが実証された。これらの成果は、グラフェンの炭素原子骨格を維持しつつバンドギャップを付与できる可能性を示す。 化学的性質の制御においては、基板に貼り合わせたグラフェン表面の性質に及ぼす界面の水層の効果を明らかにし、また、基板表面の親水/疎水性という化学的性質が水層を通して基板表面に透過することを実証した。これらは、グラフェン表面の分子吸着特性を制御する有力な方法となる。
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