本研究の目標は、電極表面における固体電解質界面(SEI)の形成サイトを特定し、電極表面のナノ構造に基づいたSEIの制御法を提案することである。SEIは、Liと電解質から成る化合物の厚さ数nmの層であり、リチウムイオン電池の陽極と電解質の界面に形成される。電極表面や電解質の分解を抑制する正の効果と、電池の付加逆容量を増加させる負の効果を併せ持ち、SEIの構造(厚さ、濃度)の最適化がリチウムイオン電池の長寿命化、高容量化の鍵である。 平成24年度は、二酸化チタン(TiO2)(110)-(1×1)表面における炭酸プロピレン(PC)分子の吸着を解析した。TiO2は、リチウムイオン電池の陽極材料であるマンガン酸化物と同様にイオン性が強い酸化物である。表面は平坦なテラスで構成され、テラスにはO原子が抜けた欠陥が存在する。このO原子欠陥やテラス間の段状構造(ステップ)には配位不飽和なTi原子が露出する。そのため、これらのナノ構造にはPC分子が吸着し、SEIの形成サイトとなる可能性がある。 TiO2(110)-(1×1)表面の仕事関数はPC分子の吸着により減少した。仕事関数の減少は真空側に向いた表面双極子の形成を示す。極性分子であるPC分子は負に帯電したカルボニル基のO原子を介して(1×1)表面に結合すると考えられる。走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた分子スケール観察により、PC分子がTi原子列上及びO原子欠陥に吸着することがわかった。室温でPC分子はTi原子列上を拡散したが、O原子欠陥には安定に吸着した。カルボニルO原子はO原子欠陥で露出した2つのTi原子に配位し、安定化すると結論した。 得られた結果は、電極表面の還元処理によりO原子欠陥の密度を変えることでPC分子の吸着を制御できることを示す。今後、Li原子とPC分子の反応活性サイトの特定、マンガン酸化物表面の電解質溶液中解析を進める。
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