研究課題/領域番号 |
23656033
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齋藤 彰 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90294024)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 放射光 / X線 / 元素分析 / 金属 / 有機分子 / 内殻励起 / 元素選択 |
研究概要 |
本研究の目的はSTMの最大の欠点を改善すること、つまり元素分析STMの実現である。STMは原子分解能をもつ強力な分析法だが「浅い電子準位に依拠」するため元素分析に致命的な難点がある。そこで内殻情報を付与、つまり特定波長・単色の高輝度X線をSTM観察点に入射し、トンネル電流変化から試料の組成・状態を原子分解能で分析することが主眼である。特に本課題では、金属内包有機分子の元素選択的な分析と制御(内殻励起と探針刺激を組み合わせ、ナノ局所反応制御に応用)の足がかりを得る。このためまず、最初に行うべきは金属自体の元素コントラストの取得である(そのために特に、金属基板でのコントラスト取得が重要なヒントとなる)。なぜなら従来ずっと同様の目的で行ってきた半導体基板と異なり、金属では表面光起電力(SPV)もなく、励起寿命が更に短く、かつバンド局在性が小さいためコントラストが著しく出難いと予想されるからである。この点は今年度の試みで様々なことが分かった。具体的には有機分子に先立つテスト系としてAu(111) 清浄表面-Coナノアイランドの試料分析を試みた。その結果まず、SPVが皆無の金属基板でも「元素コントラストが出る」こと、また元素コントラスト像は形状像にない情報を数多く含んでいること、また、光軸調整は全反射調整について途中過程は従来と異なるが、従来通りできること、また半導体基板と決定的に異なり、照射損傷が著しく低いこと、等である。一方、元素コントラストの得られる条件が限られること、それが探針状態に大きく依存すること、Auの損傷は微小でもCoは走査で損傷が大きいこと、全反射が得られにくい場合があること、等の留意点もわかった。これらは今後に向けて、大きな布石となった。なお、本テーマは国内外で注目度が高く、比較的多めの講演依頼を受けているため、旅費の支出が多い状況になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は萌芽的な内容であり挑戦も含むため、相応の段階的な準備がいくつか必要である。そこでまず、これまで半導体でのみ行われてきた放射光STMによる元素分析について、初めて金属基板への適用を試みた。その結果、当初に懸念された「金属の元素コントラスト(従来、結果の得られてきた半導体でなく)」について、実績欄で述べたとおりポジティブな結果が得られた。つまり金属基板上の異種金属でもコントラストが得られることで本手法の一般性が証明され、かつ、金属内包分子への応用にとっても重要かつポジティブな前提が得られた。かつ、本手法での金属に対する元素コントラストについて実験上の種々の新事実が得られ(実績欄を参照)、次のステップへのさまざまな布石が得られた。以降の2年間で、さらに挑戦的な試みを行うが、そのための準備としては有益であった。一方、理想的には、次段階に予定されたいくつかの試みを行いたかったが、それらは限られたマシンタイムという事情もあり、後の2年間に行うことになった。このため、当初の計画以上の進展とは言えず上記の評価になった。具体的には、金属そのものから発展し、実際の金属内包分子によるFeasibility Studyを行うこと(このための試料作製ノウハウも構築する必要がある)、また、そのための光源の工夫(つまり光子密度増とビーム面積減(ノイズ減)のための集光)、といった内容である。本来、後者の集光にはゾーンプレートを用いた集光系の立上げが必要であり、それが途上にあるという事情が、物品費の使用量に現れている。ただし、これらは遅速には関係するが本質的な問題ではなく、むしろ上述の「金属でのコントラスト取得の有無」という点で肯定的だったことが本質的である。これらを受けて、次の2年間の進捗を以下に検討する。なお本テーマは国内外で注目度が高く、多くの講演依頼を受けているため旅費の支出が多い。
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今後の研究の推進方策 |
金属原子自体の元素コントラストの分析は本課題の基本となるため、特にその原理については可能な限り明確にしておく必要がある。その後(全体計画の進み具合とのバランスによるが)金属そのものから発展し、課題の最終目標である金属内包分子の元素識別を行う。本計画では、内殻励起による放出電子でなく、励起に続くフェルミ準位近傍の状態変化を、トンネル電流変化としてとらえる点に特徴があるが、本測定原理は無機・有機を問わず共通であり、この土台から有機系へ展開を行う。推進の手順として、まず金属内包分子でのFeasibility Studyを行う(このための試料作製ノウハウも構築する必要がある)。この段階では、従来と同様の測定システムを用いて元素コントラスト取得を試みる。しかし同時に、そのための光源の工夫として、集光を行う(つまり光子密度増(シグナル増)とビーム面積減(ノイズ減)のための集光である)。ただし、光子密度の大幅な増加は光照射による熱ドリフト、測定系の照射損傷、等の不利も伴う。そこで、集光にはゾーンプレート(ZP)を用いた集光系の導入(これでビーム面積が減)を行う。従来のAperture がZPに置き換わるが、ZP集光後のビーム径では軸合わせが不可能である(顕微鏡で拡大できない)。そこで、集光条件下での軸合わせを可能にする「STM探針・試料リアルタイムモニタシステム」の立ち上げも行う。残る技術上の1点は、放出電子を除去したトンネル電流検出を行う目的で、ノイズ抑制に著効がある「STM探針の絶縁コート」である(技術はすでに、獲得ずみだがS/N比を高める必要がある)。これらを組み合わせ、金属内包分子の元素コントラスト測定を、集光光学系とモニタシステムの立上げられた条件下で、高度化された絶縁コート探針で行うことにより、所定の目的が達成できると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述の通り、次年度以降も金属原子自体の元素コントラスト分析は本課題の基本的前提となるため、特にコントラスト原理は可能な限り明確にする。この段階では研究費は試料作製の材料のみである。その後、課題の最終目標である金属内包分子の元素識別を行うが、まずFeasibility Studyを行う。ここで試料作製ノウハウを構築する必要があるが、元素分析の基本的な測定原理については無機・有機を問わず共通であり、従来と同様の測定システムを用いる。ゆえにこの段階で研究費は、試料作製と、測定系のメンテナンスを中心とした維持費用に用いる(測定系の維持には相応の費用がかかる)。一方、新たな挑戦として、光源の工夫が必要であり、それは光子密度増(シグナル増)とビーム面積減(ノイズ減)のための集光である。光子密度の大幅な増加は熱ドリフト、照射損傷、等の不利も伴うので、集光にはゾーンプレート(ZP)を用いた集光系の導入(これでビーム面積が大幅に減)を行う。従来のAperture がZPに置き換わることになるが、高価なZP自体はすでに持ち合わせがあり、研究費はむしろZPを支持するサポートと駆動系、さらにその制御系、チャンバ等にあてられる予定である。最終的に、ZP集光後のビーム径では軸合わせが不可能なため、それをカバーするリアルタイムモニタシステムが必要であるが、これは最終年度に行うことになるので、今年度の研究費ではモニタ系は充当しない予定である。一方、本テーマは外部施設SPring-8での実験遂行が前提となるため、マシンタイムとその準備用(試料作製、測定系整備など)の旅費と滞在費(さらに補助にあたる学生3名の分)が相当数、必要である。さらに、すでに3件の招待講演依頼が海外から来ており(うち2件は、旅費が自前)、これらに関わる旅費が、研究費の少なからずを占める予定である。
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