研究課題/領域番号 |
23656034
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
倉橋 光紀 独立行政法人物質・材料研究機構, 極限計測ユニット, 主幹研究員 (10354359)
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キーワード | 表面・界面物性 / 磁性 / 酸化物 |
研究概要 |
本計画の目的は、表面修飾によりハーフメタル酸化物最表面スピン偏極を回復させ、特に吸着有機分子に高いスピン偏極を与える方法を探索することである。本年度は、当初の計画通り、強磁場表面磁性計測装置に接続する有機薄膜作製用真空装置を作製するとともに、吸着分子スピン偏極計測を行った。まず、有機薄膜作製容器に関しては、既存の真空排気装置、超高真空容器容器および電流導入端子等の真空部品を再利用することにより、製作費用を節約することができた。10-9Torr前半の真空条件下で温度制御したるつぼからの蒸着と膜厚計による蒸着速度計測をできるシステムを整え、これを強磁場偏極ヘリウムビーム装置に接続し、試料トランスファーできるようにした。次に、Fe3O4表面に吸着した有機分子の誘起スピン偏極、および吸着分子の常磁性計測を試みた。Fe3O4表面スピン偏極度を水素終端により回復させ、これにより吸着分子フェルミ面近傍の電子状態に高いスピン偏極を誘起させることを狙っている。しかし、Fe3O4表面のフェルミ面状態密度が低いために、フェルミ面近傍の誘起スピン偏極を準安定ヘリウムビームによりモニターしにくい問題があり、誘起スピン偏極計測が計画より遅れている。また、基板表面と分子の相互作用が吸着常磁性分子のスピンに与える影響に着目している。物理吸着した酸素分子に明瞭なスピン偏極を観測することには成功しており、今年度誌上発表することができた。いくつかの常磁性有機分子に対し液体窒素温度でのスピン偏極計測を試みたが、現時点では明瞭なスピン偏極は観測されていない。当初予定していた液体ヘリウム温度でのスピン偏極計測がヘリウム供給不足の影響等で進まず、低温実験と他の常磁性分子での探索も課題として残った。そこで計画を一年延長し、次年度にこれらを実施することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
有機分子蒸着チャンバーは予定通り製作でき、蒸着と膜厚計測ができること、また強磁場偏極ヘリウムビーム装置への試料搬送も正常に行えるシステムを整えることができた点では順調である。一方、以下の点では計画より遅れている。分子と基板の伝導電子が相互作用して吸着分子フェルミレベル付近に誘起準位が形成され、強磁性基板がこの電子状態に誘起するスピン偏極を本計画では測定する必要がある。水素終端によりFe3O4(100)表面ハーフメタル性を回復させた基板が、有機分子伝導準位に誘起させるスピン偏極度をモニターすることを試みているが、該当する電子状態由来のピークが微弱であり、内核準位のペニングイオン化のピークと重なり議論が難しい問題に直面している。常磁性分子自身のスピン偏極に関しては、物理吸着状態の酸素分子に対して明瞭な信号を検出できたが、他の有機分子に関しては信号検出は今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)誘起スピン偏極計測: 本プロジェクトと並行して量子状態選別酸素分子ビームによる表面反応計測装置を開発しており、反応計測装置でもスピン偏極準安定脱励起分光測定が可能な状態になっている。両プロジェクトを効率よく推進するため、吸着分子誘起スピン偏極測定も本装置により行う予定である。準安定ヘリウム原子生存確率もフェルミ面近傍の誘起準位に敏感であるため、生存確率のスピン依存計測により誘起スピン偏極をモニターすることも試みる。また、水素終端以外の方法によるFe3O4(100)表面ハーフメタル性改善法、表面伝導電子状態密度向上の方法、強磁性基板と有機分子をファンデルワールス結合ではなく、化学結合させて効果的にスピンを誘起させる方法について検討する予定である。 (2)常磁性分子と表面の相互作用 フタロシアニンなど磁性金属イオンを含む有機分子は金属的な表面に吸着すると多くの場合スピンが失われる。スピンが失われない系を探索し、また強磁性基板との磁気結合を強磁場偏極ヘリウムビーム法により探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度からの繰り越し額(1600千円)は、蒸着用試料(200千円)、電子部品(400千円)、単結晶基板(MgO等、200千円)、真空部品(500千円、ガス導入バルブ、蒸着源改造など)、液体ヘリウム購入費(200千円)および国内出張旅費(100千円、年二回)に使用予定である。
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