研究概要 |
ハーフメタル強磁性体は、高いトンネル磁気抵抗比やスピン注入効率を実現する上で欠かせない材料であるが、その多くは、表面・界面でスピン偏極度が大きく減少する問題点を抱えている。一方、我々はハーフメタル酸化物の一つであるFe3O4表面に対し、(100)表面のスピン偏極度は殆どゼロに近いが、表面の水素終端により最表面スピン偏極が劇的に増大する現象を発見した。本計画では、表面修飾によりハーフメタル最表面スピン偏極を回復させ、その表面を用いて隣接分子に高いスピン偏極を誘起する方法を探索することを目標とした。本研究では以下の2点に着目して研究を進めた。 (1)表面スピン偏極および表面改質法の検討 Fe3O4(111)面スピン偏極計測を行った。(111)面に関しては、スピン分解光電子分光法で観測された表面数層の平均スピン偏極が-80%程度と高く、デバイス応用には(111)面が適していると考えられてきた。しかし、(111)最表面のスピン偏極度は予想外の逆極性(+20%)であり、水素終端による偏極回復は殆どないことを我々は実験的に明らかにした。最表面にFe3+イオンが露出しているためと考えられた。 (2)吸着分子のスピン偏極計測 有機分子蒸着用小型チャンバーを作製し、ナフタレン、鉄フタロシアニンをFe3O4上に蒸着した。しかし、Fe3O4が分子のEF近傍に誘起する電子状態のDOSは大変低いため、そのスピン偏極計測が困難であり、この問題を期間内に克服することができなかった。なお、基板との相互作用は詳しく議論できなかったが、吸着常磁性分子(O2,Feフタロシアニン)のスピンを強磁場下での測定により検出した。
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