本研究は単年度(平成23年度)での実施であり、以下の報告は最終年度かつ研究期間全体を通じて実施した研究の成果である。電子エネルギー損失分光法やヘリウム原子線散乱法に続く結晶表面におけるフォノン分散を検出する新手法として、X線のフォノンによる散乱を利用した測定手法を検証した。そのために、我々が開発してきた透過表面X線回折法を基に、表面および超薄膜からのX線フォノン散乱(熱散漫散乱)を測定するための測定システムを構築した。その場X線計測のためには対象表面を清浄に保つ必要があり「超高真空対応自動回転ステージ」(購入物品)による試料回転の精密制御が可能な「透過X線回折用超高真空チャンバ」(購入物品)を製作した。実験は、大型放射光施設SPring-8の表面・界面X線構造解析ビームラインBL13XUで行った。X線フォノン散乱の測定には一光子計測の可能な二次元検出器(PILATUS)およびX線プリズムレンズによる集光ビームを用いた。X線反射率計測により厚さ9.6ナノメートルと見積もられたビスマス超薄膜を清浄なシリコン(111)面上にその場作製し、そのビスマス超薄膜からのX線フォノン散乱を計測することができた。 厚さ10ナノメール程度の超薄膜のフォノン分散はこれまで全く報告がないと言ってよい。本研究で、厚さ9.6ナノメートルのビスマス超薄膜のX線フォノン散乱が観測できたことにより、既存の分光手法とは異なる光の散乱現象を利用した新しい測定原理に基づくフォノン分散の測定方法が超薄膜に有効であることが示された。この結果は、今後ビーム輝度を二桁増大させることができれば、本手法で単原子膜や結晶表面のフォノン散乱の計測も可能になることを示しており、まさに二桁のビーム輝度増大を目指すSPring-8IIといった次世代光源の到来によって、本手法が、表面フォノン由来の表面相転移等の研究に大いに真価を発揮する手法として発展していくことが期待される。
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