本研究は、中性子ビーム輸送技術と利用効率の大幅な向上と中性子干渉計や集光型小角散乱装置の測定感度向上を目指し、ナノ微粒子ーポリマーナノコンポジット材料へのレーザー光によるホログラフィック光重合で形成したナノ微粒子の空間分布から生じる中性子ビームのコヒーレント弾性散乱現象を利用して、中性子ビームの偏向(反射)などの制御を高効率かつ柔軟に行えるホログラフィック中性子光学素子の実現を目的とする。 当該年度においては無機ナノ微粒子ーポリマーナノコンポジットへの体積ホログラムの記録を行い、海外共同研究者のFally 教授(ウィーン大学)の研究グループによる概体積ホログラムからの中性子ビームの回折特性について詳細に検討を行った。以下にその研究実績について列記する。 1.SiO2ナノ微粒子を用いたナノ微粒子ーポリマーナノコンポジット材料による膜厚試料を作成し、緑色(532nm)レーザーを用いて格子間隔0.5ミクロンの格子間隔の透過型平面波体積ホログラム試料を作成した。その結果、屈折率変調が0.01に近い高コントラストの屈折率格子を実現するとともに、記録したホログラム膜をガラス基板から剥離することで体積ホログラム自立膜を得ることができた。 2.概体積ホログラム試料を用いた冷中性子ビーム(波長1.7 nm)と極冷中性子ビーム(波長4 nm)の回折実験を実施した。その結果、試料の膜厚の制限を克服するためにPendellosung干渉効果を利用して体積ホログラム自立膜試料を傾けることにより波長4 nmで最大90%の回折効率を得ることが出来、全反射ミラーに近い動作を実証した。また、3つのビームがほぼ均等に分配される3ポートビームスプリッター動作も波長1.7 nmで確認できた。
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