本研究では、次世代超高速光通信の基幹デバイスであるフェムト秒の時間スケールで応答する超高速光スイッチの実現に向けて、半導体中の励起子準位間の干渉効果である量子ビートによる超高速光応答を利用し、そのスイッチング特性およびその制御性を明らかにすることを目的とした。 半導体中に閉じ込められた励起子の離散化された2つの準位を、超短パルスにより同時に励起することで、これらの準位間の干渉効果である励起子量子ビートが生じる。この励起子量子ビートによる振動構造が過渡応答信号に重畳することにより超高速応答を得ることができる。 膜厚が110 nmのGaAs薄膜では、励起子重心運動が閉じ込められるため、離散化された励起子準位が形成される。この離散化された励起子準位を励起することで、量子ビートが発生することを、縮退四光波混合法による測定結果から、これまでに報告していた。縮退四光波混合混合法による緩和は位相緩和に起因するものであるため、高繰り返し応答に伴う波形の歪み、いわゆるパターン効果を抑制するためには、エネルギー緩和での量子ビートの発生が必要である。そこで、波形スペクトルを精密制御したパルスをGaAs薄膜に照射し、ポンプ-プローブ法による測定を行った。その結果、重心運動閉じ込め系で初めて、ポンプ-プローブ法による量子ビートの観測に成功した。ポンプ-プローブ法による測定は、励起子のエネルギー緩和を反映していることから、この結果は、パターン効果の抑制に向けて重要な知見となる。 さらに相互相関法により、反射パルスの波形測定を行い、実際の変調効果を観測したところ、ポンプ光の照射に伴う群速度の変化により、プローブ光が最大で40%程度変調されることを見出した。これらの結果は、超高速光スイッチの実現に向けて重要な知見であると考えている。
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