研究課題/領域番号 |
23656056
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
青木 貞雄 筑波大学, 名誉教授 (50016804)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 中性子 / 位相差 / 暗視野 / ウオルターミラー / イメージングプレート / 原子炉 / 全反射 / 顕微鏡 |
研究概要 |
中性子はX線と同様に物質に対する透過力が高く、物体構造の内部を非破壊的に観察するプローブとして使える。特に、水素を含む物質の中性子の吸収率はX線に比べて高く、水や有機物などの水素含有物の観察には適している。この性質を利用して中性子イメージング(投影法)が行われているが、像の分解能は検出器の解像度によって決まり、0.1mm前後に留まっている。微細な構造を観察するためには、中性子自身を結像できる光学素子が必要となる。本研究では、中性子結像素子を開発し、中性子顕微鏡を組み立て、像コントラストを増大させる映像システムを構築する。(1)中性子結像素子の開発波長0.1~1nmの中性子結像素子として、斜入射全反射ミラーの可能性を確かめるために、同波長領域のX線結像用ウオルターI型ミラーの中性子集光実験を行った。実験は日本原子力研究開発機構の原子炉JRR-3のビームラインCNRF(cold neutron radiography facility)で行った。中性子集光画像をイメージングプレートで検出し、検出器の解像限界(100ミクロン)の分解能で集光像を得た。(2)中性子位相差および暗視野顕微鏡用位相板の検討物体に対する中性子の透過率が高いことは非破壊検査用として非常に有利な性質であるが、観察対象が小さくなると像コントラストが得にくくなる。その問題の解決手段として物体中の密度差を位相差として表現する方法がある。本研究では、その内の一つの方法として、ツェルニケの位相差法を採用する。本方法は、対物素子によって物体透過光を素子後方でフーリエ変換し、直接光と回折光に4分の1波長分の位相変調を施し、コントラスト増大を図る手法である。平成23年度は、当該中性子波長域におけるガドリニウム、ボロン、銅、ニッケルなどの光学定数(位相および吸収に関係)を調べ、位相板としての検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性子結像用ミラーを設計・試作し、中性子の集光を試みた。中性子の波長を0.5nmに設定しミラー光学系を設計した。ミラーの試作は数値制御旋盤を用いて、金属母材(タングステンカーバイド)の研削・研磨加工で行った。レプリカはパイレックスガラスパイプを用いた。内面にニッケル蒸着を施し中性子の反射率向上を目指した。母材の形状加工精度は約1ミクロン表面粗さは約1ナノメートルを達成した。ニッケルの内面蒸着を試みたが、下地のガラス表面の粗さには至らなかった。新しく試作したミラーでの中性子集光は可能であったが、集光能力の定量的な評価には至らなかった。代わりに、これまでに開発して来たX線用ミラーを中性子集光に適用したところ、定量評価可能な実験が出来た。新たなミラーの試作では、ミラー表面にニッケル蒸着を施したが、その表面粗さが許容範囲を超え、集光性能が劣化したものと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
中性子ミラーの試作を継続するため、設計・製作を実行する。特に注意すべき点として、ミラー表面の粗さをサブナノメーター以下に仕上げるために、最終的な研磨加工の精度を向上させる。加工向上のために、最終仕上げのダイヤモンド治具の粉末の大きさをナノメートルオーダーのものを採用する、ニッケル等の蒸着によってミラー表面粗さの劣化を防ぐべく、真空度と蒸着速度を精密のコントロールするシステムを構築する。平成24年度は位相板の製作を行うが、円形リング状の位相板と矩形状リングを検討し、加工・精度の点をチェックする。材料としては、加工のし易さから、ニッケルおよび銅を中心に試作を行うが、ガドリニウム、ボロンも念頭に置く。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額のうち、3月に物品を手配した分及び出張旅費の支払いが4月となるため生じている分が一部あるほか、平成23年度は震災による影響で日本原子力研究開発機構の原子炉およびJ-PARCの運転の一部が止まり、実験の実施費用に減額が生じた。そのため、当該年度は予備実験データの整理を中心にして、新たな設計作業とミラー加工数値プログラムの製作に注力した。購入予定の物品費を次年度研究費と合わせて評価装置の消耗品等に使用する計画である。中性子ミラーの製作は(1)ミラーレプリカ用母材の研磨加工、(2)ガラスレプリカの製作、(3)ミラー内面蒸着の工程からなる。この各工程で母材(タングステンカーバイド)、ガラスパイプ(パイレックスガラス)、蒸着材(ニッケル)などの費用が発生する。中性子ミラーの性能評価は、表面粗さ測定、ミラー形状測定、X線による結像特性評価で行う。それぞれの評価装置は繰り返し頻繁に利用するため消耗品費用が発生する。中性子結像評価には日本原子力研究開発機構の原子炉あるいは加速器中性子を用いて行う予定であるが、マシンタイム割り当てのため一定の実験期間のための滞在費が必要となり、出張旅費が発生する。
|