研究課題/領域番号 |
23656056
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
青木 貞雄 筑波大学, 名誉教授 (50016804)
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キーワード | 中性子 / X線 / 顕微鏡 / 位相差 / 暗視野 / ウオルターミラー / 全反射 / 斜入射 |
研究概要 |
中性子顕微鏡実験を目的としたJ-PARC中性子実験施設のビームラインの検討を行った。 本研究で用いる中性子の波長領域は0.1~1.0nmで一般に冷中性子と呼ばれている。中性子実験施設のビームラインの内、この波長域を満足しかつ中性子顕微鏡光学系が設置できるビームラインを検討した結果、BL05のビームラインが最適であるとの結論に達した。 中性子顕微鏡光学系は、照明および対物用共にウオルター型ミラーを利用することにし、その組み合わせについて検討を行った。対物用は、前年度中性子結像に成功したウオルター型ミラーを使用することにし、照明用は同程度の性能を有するウオルターミラーを中性子集光照明に使うことにした。双方のミラー共、波長0.15nmのX線結像の評価を行った結果、5ミクロン以下の結像性能を有することが確かめられた。 観察対象として水を含む生体試料を予定しているため、その試料環境について検討を行った。含水試料を顕微鏡観察する際、観察前と後で試料が水を含んでいたかどうかを確かめるため、実験室系の軟X線顕微鏡を利用して実験を行った。試料槽はSiNの2枚の薄い膜を窓とし、試料はこの2枚の薄膜ではさまれた形で作った。炭素の吸収端波長4.3nm前後で軟X線像を撮影すると、試料槽に水がある時、吸収端より短波長側では有機物(炭素を含む)の像が暗くなり、長波長側では明るいコントラストが得られることが分かった。本手法は、軟X線・中性子顕微鏡以外の様々な顕微鏡観察に際し、試料が観察前後で含水状態であるか否かの判別に有効であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ウオルターミラーによる冷中性子(波長0.1~1nm)集光実験は順調に行われたが、結像実験は原子炉停止の影響で本年度は出来なかった。また、中性子シンチレーターとCCDカメラの組み合わせによる中性子カメラの組み立ては行えたが、これも原子炉中性子源の利用が出来なかったため、実機としての性能評価が行えなかった。冷中性子集光が実証されたので、ウオルターミラーを用いた中性子顕微鏡光学系の組み立てが可能になった。 また、J-PARCの中性子実験施設の運転が再開され、中性子顕微鏡実験の可能性が出て来たので、本研究課題に適した冷中性子ビームラインのマシンタイム申請を行った。幸いにして、平成25年度上期にマシンタイムが確保できたので予備的な実験を開始する条件は揃った。
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今後の研究の推進方策 |
中性子顕微鏡光学系に使用する照明用と対物用のウオルターミラーが決まったので、その光学系のパラメーターに合わせた他の光学素子と検出器の準備をする。 検出器はGd2O2Sをシンチレーターとし、その画像をCCDカメラで撮影する。また、この光学系に合わせた位相板を銅の薄板で作製する。位相板の厚さを決定するために、冷中性子の干渉計を構築し、干渉縞の4分の1波長分の変化から位相板の厚さを決定する。 実験はJ-PARC中性子実験施設ビームラインBL05で行うが、中性子顕微鏡の中枢部であるウオルターミラー光学系は、あらかじめ実験室系で光軸調整を行っておく。
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次年度の研究費の使用計画 |
中性子実験が平成24年度は震災の影響等で延期され、予定していた物品の購入や出張が遅れた。 平成25年度では、中性子顕微鏡光学系の構築のため、光軸調整用光学架台、スタンド、ステージ、パルスモータ制御装置を準備する。また、シンチレーター撮像条件改善のために、CCDカメラを含む撮影用暗箱の製作を行う。 位相板は微細加工によって作製するため、製作費を割り当てる。 中性子像検出器のためのソフトウエアー(Igor Pro)の購入も行う。 中性子実験および準備のため、出張旅費の増加も見込む。
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