研究課題/領域番号 |
23656068
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 滋 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60271011)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ボルツマン方程式 / 対数特異性 / 速度分布関数 / 気体分子運動論 / 希薄気体 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
気体分子運動論では,気体を連続体ではなく分子という微視粒子の集団と考え,気体の振舞いを分子の速度分布関数(位置と速度の相空間における分子の数密度)を通して理解しようとする.このとき,流体力学的な巨視的物理量は,速度分布関数の重みつき平均量として定義される.本研究では,種々の局面に応じて巨視的物理量にみられる特異な振舞いを速度分布関数(あるいはその導関数)の不連続という視点から統一的に解釈することを試みる.初年度は,2平板間の希薄気体を考え,解析的考察から出発してそれを反映した新しい数値解法を開発した.その結果,主に次の3つの新しい知見を得た:1.平面状の境界近傍では,巨視的物理量の勾配は,境界からの距離に対して対数的に振舞う.このことは,巨視的物理量の勾配が境界上で対数発散することを意味している.2.速度分布関数の重みつき平均量の示す1の特異性に由来して,分子速度の境界に垂直な成分に対して,速度分布関数は境界上で同様の特異性を示す.3.速度分布関数は一般に境界上で不連続であることが知られている.巨視的物理量の対数的な特異性の強度は,この不連続の大きさと定量的に関係づけられる.より詳細には,衝突頻度を介してこの不連続が減衰することが上記の特異性の構造である.以上の成果は,次年度6月に開かれる国際会議(14th International Conference on Hyperbolic Problems; 開催国:イタリア)で招待講演として報告する. 一方,上記2に関して,Tai-Ping Liu教授,I-Kun Chen博士を招へいし,高希薄度気体の場合の数学的証明に着手した.この研究は現在進行中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もっとも基本的な平面状境界の場合に,速度分布関数の不連続と巨視的物理量の対数型特異性の直接的関係を定量的なレベルで引き出すことに成功している.これには,研究計画当初の解析的考察に加えて,それを反映させた新しい数値解析法を開発するのに成功したことが大きい.また,Tai-Ping Liu 教授,I-Kun Chen 博士を招へいして直接討議を進めたことで,数学的証明に向けた一歩を踏み出すこともできた.証明はまだ完了していないが,こちらもほぼ順調に進行している.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の実績を受けて,次の3つの展開を図る:1.初年度の数値解析による基盤的成果をまとめ,流体力学に関する国際学術誌に投稿する.2.初年度に着手した数学的証明を進行する.これには伝統的な証明方法に加えて,「精度保証付き計算」による計算機支援証明という方法を用いる.3.初年度の成果は平面状境界の一般論であるが,これをさらに一般的形状の境界に拡張することをこころみる.これは,曲率をもつ境界付近での巨視的物理量にみられるべき特異性を洗い出し,それに統一的な理解を与えることを目指すものである.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の成果報告のための国外旅費,国外協力者を招へいした集中的討議により数学的証明の完成を行うための招へい旅費にもっとも大きな経費を配分する(80万円).また,計算結果を整理するために要する物品費に12万円,その作業補助への謝金に5万円をあて,残り(3.4万円)をその他(専門書購入費や計算機使用料など)の経費に充てる.
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