研究課題/領域番号 |
23656073
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
及川 靖広 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (70333135)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | シミュレーション工学 / 数理物理 / 音響学 / 分子動力学 / 可視化 |
研究概要 |
音は波動方程式に基づき空間を伝搬し、音場を形成する。音場の数値計算においては、近年、波動方程式に基づいた有限要素法、境界要素法、差分法等の様々な計算方法が導入されてきた。一方、これまで断熱系として論じられてきた音の伝搬であるが非常に細い管の中では熱の移動を無視できない状態となる。そのような状態で起こる現象として熱音響現象などがあり、それを利用した冷凍機等が実用化され応用が進みつつある。しかし、いまだその現象の把握が不十分な状況にある。本研究では、空気分子の運動に着目し分子動力学法を導入した音波の伝搬の計算、音場の解析を行い、これまで無視されてきた熱の移動を無視できない状態の音場を解明することを目的とする。 初年度は分子動力学法を用いた音場解析手法を確立するための基礎検討を重点的に行った。具体的には、分子動力学法に関する理論的検討として、これまで音響分野において導入されたことが無い手法であり従来の波動方程式による解析との比較も含め理論的検討を行った。次に、音場解析に適したアルゴリズムの検討として、並列化技術、GPU技術などの利用を視野に入れ、アルゴリズムの最適化をはかった。さらに、基礎的波面の解析として平面波を対象とし分子動力学法に基づく方法により計算を行い、理論値、従来の波動方程式に基づく方法との比較を行った。まずは熱の移動を考慮しない場合の解析を行った。また、センサディスプレイ複合アレーにより音場の状況を詳細に把握する手法の検討し、音場中の粒子の挙動の観測として高速度カメラを用いて音場中に散布した油滴や埃の動きを観測し、さらにその動きを解析することにより音情報の抽出を行った。これら結果により、媒質を複数の分子と見なし、音波伝搬に関する解析が可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、具体的には、以下の事項を行った。分子動力学法に関する理論的検討として、まず分子動力学法の音場解析への適用に関し検討を加えた。これまで音響分野において導入されたことが無い手法であり、従来の波動方程式による解析との比較も含め理論的検討を行った。次に、本解析手法によるシミュレーションを行うためのプログラムを開発した。音場解析に適用する場合、複雑な境界条件、膨大な粒子数への対応が必要となる。これを解決すべく並列化技術、GPU技術などを利用したアルゴリズムの開発し、計算プログラムを構築した。作成したプログラムを用い、分子動力学法に基づく計算を行った。特に、平面波を対象とし分子動力学法に基づく方法により計算を行い、理論値や従来の波動方程式に基づく方法との比較を行った。まずは熱の移動を考慮しない場合の解析を行った。また、音場の詳細な可視化をするとともに、音場中の粒子の挙動を実測し確認した。特に、高速度カメラを用い音場中に散布した油滴や埃の動きを観測し、さらにその動きを解析することにより音情報の抽出を行った。これらの結果、媒質を複数の分子と見なし、音波伝搬に関する解析が可能であることが確認できた。 以上、分子動力学法に関する理論的検討、音場解析に適したアルゴリズム開発、従来法との比較など、当初予定していた実施計画をほぼ達成するとともに、当初予定に加えて高速度カメラを用いた音場中に散布した油滴や埃の動きの観測なども実施し、それら成果を論文、国際会議等で発表した。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果を基にして、熱音響現象を対象として以下の解析を行い、本手法の有効性を示すとともに、その原理の解明、理論の構築を目指す。・細管内を伝搬する音波の解析、壁面との熱の移動の解析 空気の粘性の影響により壁面近傍と細管中心部での粒子の動きは異なったものになっていると考えられる。細管内の音による粒子の動きに着目し、細管内を伝搬する音波を解析する。また、これら粒子と壁面との間で生じる熱の移動に関し同様に粒子の動きに着目した解析を行い、断熱変化を仮定できない系での音響現象を解析する。この熱の移動がある系を対象とし、従来の波動方程式に基づく方法と分子動力学法に基づく方法との計算結果の比較検討を行い、本手法の妥当性を示す。・物理測定との比較 赤外線カメラでの温度分布測定、レーザドップラ振動計を用いた音場測定、高速度カメラを用いたPIV解析からの音場測定などの測定手法を用いて細管が束になったスタック内の音場を観測するとともに、その数値計算を行う。それら実験結果と計算結果との比較を行い、新しい熱音響現象理論の構築を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、数値計算による細管内を伝搬する音波の解析、壁面との熱の移動の解析を中心に研究を行う。したがって、物品費として初年度に購入した計算機の故障にそなえたPC補修部品、関連書籍などの購入を計画している。また、研究成果整理のための謝金、成果発表のための旅費、論文投稿料などの費用が必要であり、これら費用の支出を計画している。
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