研究課題/領域番号 |
23656073
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
及川 靖広 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70333135)
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キーワード | シミュレーション工学 / 数理物理 / 音響学 / 分子動力学 / 可視化 |
研究概要 |
平成24年度は前年度に得られた結果を基にして、壁面との熱の移動のある系を対象とした解析を中心に行い、本手法の有効性を示すとともに、その原理の解明、理論の構築を目指した。 ・壁面との熱の移動を考慮した細管内を伝搬する音波の解析:分子動力学法を用い、分子位置と分子速度を逐次求めることができる。求められた分子位置、分子速度の分布から分子数密度、速度分布、圧力分布、温度分布などの熱力学に対する処量を導出することがでる。さらに、気体分子が固体表面と相互作用する拡散反射モデルを取り入れることにより、壁面と期待との間に熱の移動のある系での音響現象を解析することができると考えられる。拡散反射モデルは、入射した気体分子が固体表面と十分に相互作用をし、反射する際には固体表面と熱平衡状態にあるという理想的な状況を考えているとも言える。このモデルを導入し、シミュレーション区間上下端の壁面と気体分子が衝突の様子、微細音場における圧力分布変化の確認に成功した。通常の波動方程式を解く限り熱の移動を把握できないが、本手法によりそれらを考慮した数値計算が可能である。 ・気体の状態を考慮した数値計算:流体力学における連続の式、Navier-Stokes方程式、熱力学の関係式を用いて空気粘性等の影響を含めることのできる音波伝搬の方程式、非線形な音波伝搬の方程式を導出した。これらの式にFDTD法(時間領域差分法)を適用し、強力超音波による非線形現象の計算に成功した。 ・物理測定との比較:赤外線カメラでの温度分布測定、レーザドップラ振動計を用いた音場測定、高速度カメラを用いたPIV解析を用いて管内の音場を観測した。それら実験結果と計算結果との比較を行った。類似の傾向を見ることができたが、完全は一致する結果はまだ得られていない。本研究項目については、次年度に引き続き解析を加える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、壁面との熱の移動を考慮した細管内を伝搬する音波の解析、気体の状態を考慮した数値計算、物理測定との比較について研究を進めた。 その結果、気体分子が固体表面と相互作用する拡散反射モデルを取り入れることにより、熱の移動のある系での音響現象を解析することができた。また、流体力学における連続の式、Navier-Stokes方程式、熱力学の関係式を用いて空気粘性等の影響を含めることのできる音波伝搬の方程式、非線形な音波伝搬の方程式を導出し、非線形現象の計算に成功した。さらに、実験結果と計算結果との比較を行った。 以上、昨年度実施した分子動力学法に関する理論的検討、音場解析に適したアルゴリズム開発、従来法との比較に加え、壁面との熱の移動を考慮した細管内を伝搬する音波の解析、気体の状態を考慮した数値計算を中心に研究を進め、熱の移動のある系での音響現象の解析、非線形音場の解析に成功した。当初予定していた実施計画をほぼ達成することができた。それら成果の発表を年度内に行うことはできなかったが、平成25年9月に開催される国際会議Inter-Noise2013にて発表することが確定しており、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は本解析手法の応用に関し検討する。具体的には、以下のように実験との比較を行い、分子の動きに立脚した熱音響現象理論の構築を行う。このことに関しては一部検討を進めている。実験結果と計算結果との間には類似の傾向を見ることができたが、完全は一致する結果はまだ得られていない。最終年度に引き続き解析を加える。また、現在行っているシミュレーションは、単原子分子気体を前提条件としている。実在の気体のパラメータを持たせ、空気などの多原子分子気体のシミュレーションも行えるよう手法を改善していく。最終的には、得られた結果をとりまとめたHPを作成する等、成果の発表を行なう。 ・物理測定との比較 赤外線カメラでの温度分布測定、レーザドップラ振動計を用いた音場測定、高速度カメラを用いたPIV 解析からの音場測定などの測定手法を用いて細管が束になったスタック内の音場を観測するとともに、その数値計算を行う。それら実験結果と計算結果との比較を行い、分子の動きに立脚した熱音響現象理論の構築を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の成果の発表を年度内に行うことはできなかったが、平成25年9月に開催される国際会議Inter-Noise2013にて発表することが確定している。そのための旅費を次年度に繰り越した。 次年度は、実験結果と数値計算結果の比較と理論の構築を中心に研究を行う。したがって、実験に必要な消耗品、初年度に購入した計算機の故障にそなえたPC補修部品、関連書籍などの購入を計画している。また、来年度は最終年度であるので研究成果整理のための謝金、成果発表のための旅費、論文投稿料などの費用が必要であり、これら費用の支出を計画している。
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