研究課題/領域番号 |
23656076
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂 真澄 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20158918)
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研究分担者 |
李 志遠 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 産業技術人材育成型任期付研究員 (70509710)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 金属ナノ・マイクロ材料 / ストレスマイグレーション / 熱サイクル試験 / 薄膜 / 大量創製 / 原子拡散 / 熱疲労 / ウィスカ |
研究概要 |
1.定温条件下と加速試験下における表面変化・断面実験観察 Ag、Snの薄膜サンプルを作製し、微細ワイヤ生成と諸条件の関係を調べる目的で、事前熱サイクル付与の有無による影響、原子排出後の微細材料の形状形成に関与すると思われる雰囲気冷却の影響、および薄膜が多孔質のものと均一のものの場合の影響などに注目して試験前後の表面変化の観察を行った。2.表面変化・断面観察状況の定量的考察 Agについての上記1の観察結果より、事前熱サイクル付与が多くの微細材料形成に有効であること、また雰囲気を冷却することが形成される微細材料のワイヤ状化に有効であること、さらにSnの結果より薄膜の水平方向に熱応力が伝達でき、原子が集積しやすい多孔質でない均一な膜状態のサンプルを作製することが重要であることを明らかにした。3.原子拡散の熱制御増速のメカニズム解明 上記1、2の実験結果とAlにおける熱サイクル効果の実験結果についての考察を元に、原子拡散における熱制御による増速のメカニズムを解明した。原子の拡散量を示す原子流束は原子を拡散するための駆動力と原子拡散のしやすさを決める易動度の積によって決まる。一方、熱サイクルの付与回数の増加に伴い、結晶粒内に存在する空孔や欠陥が結晶粒界に徐々に集まる。その結果、結晶粒界における転位密度が増え、活性化エネルギーを低下させることにより易動度が大幅に向上する。この考察を踏まえた上で、原子流束の発散理論を用いて、易動度の向上はヒロックの体積の増加、個々の結晶粒における易動度の勾配の向上はヒロックの生成密度の増加につながることを初めて示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験により、ヒロックを元として形成される微細材料の形状(例えばワイヤ状や球状等)を制御するためには、薄膜サンプルの加熱温度に加えて、当該材料が形成する際の外気温度をも制御することが重要であることが判明した。また様々な条件を変えた試験の実施と観察、考察を行った上で、原子拡散における熱制御増速のメカニズムを解明した。この達成は当初の計画通りである。特に解明した熱制御増速のメカニズムによれば、熱サイクル試験の導入により、当初推測していた原子の易動度(原子拡散のしやすさ)の向上に加えて、易動度の勾配も金属微細材料の形成を促進する効果があることを初めて明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、金属微細材料を生成するために、適切な膜厚を持つ人工保護膜を付与した状態で、外気温度を意図的に変化させた場合に、ヒロックを元として形成される微細材料の形状をうまく制御できるか否かを検証する。次に23年度に解明した熱制御増速のメカニズムにおける易動度の勾配が金属材料の形成を促進する効果があることに着目して、易動度の勾配を意図的に作り出すために規則性の温度勾配分布を与える試験方法を提案する。以上より24年度は、23年度に得られた実績から顕著な効果が期待できる、(4)外部冷却によるヒロックの形状制御、(5)規則性の温度勾配分布加熱によるワイヤアレーの生成、を推進することを踏まえて、最終的に(6)Al・Ag・Au微細材料の効率的人工創製の達成を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、次の理由により生じたものである。当初計画していたAu薄膜サンプルの実験を、原子拡散がより活発でその基礎を追求し易いSn薄膜サンプルに変更して実施したことで、原料の購入費が減額となった。また旅費については、当初予定していた費用より少ない額で実施できた。これは研究代表者と研究分担者が研究進捗状況を随時把握し、必要最低限かつ効率の良い研究打合せを実施し、一方で調査研究のための旅費の支出を控えたためである。 今年度の未使用額と平成24年度請求額をあわせ、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。具体的には、実施予定の(4)外部冷却によるヒロックの形状制御実験では、薄膜サンプルをセラミックヒーターで加熱しながら外部空気を冷却できる装置が必要である。このような装置は市販されておらず、独自に設計し構築する必要がある。また(5)規則性の温度勾配分布加熱によるワイヤアレーの生成実験では、規則性のある温度勾配分布を作り出せる加熱機構を検討する必要がある。当初想定していなかったこれらの費用を平成23年度の未使用額で補い、(6)Al・Ag・Au微細材料の効率的人工創製の研究を推進していく。
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