研究課題/領域番号 |
23656082
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北條 正樹 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70252492)
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研究分担者 |
井上 康博 京都大学, 再生医科学研究所, 准教授 (80442929)
西川 雅章 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60512085)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ソフトアクティブマテリアル / 複合材料 / 分子力学 / ガラス転移過程 |
研究概要 |
本研究では,ソフトアクティブマテリアル(Soft Active Materials, SAM)を繊維と複合化するソフトアクティブ複合材料の創成を目的とする.ソフトアクティブマテリアルとは,熱や光により励起され大きな変形を示すポリマー材料であり,ポリウレタン系形状記憶樹脂などが知られている.これらポリマー材料の変形の原理である相転移とその空間的な分布構造を分子レベルで把握することにより,変形機能の物理的基礎をマルチフィジックスの立場から検討した.1. ポリウレタン系形状記憶ポリマーの機能を特徴づけるガラス転移過程について,ナノフィラーによる複合化および密度の不均一性がもたらす影響を分子動力学法シミュレーションにより検討した.一軸引張シミュレーションにより,緩和時間に明確な温度依存性を再現することができた.2. 分子シミュレーションにより,フィラーを含む場合,フィラーと分子の相互作用により,フィラー近傍の分子が密となることで分子間力の影響が強まり,緩和時間は長くなった.この傾向は,分子運動が活発ではない,低温において顕著に現れていた.一方,ボイドを含む場合,ボイド表面付近で分子間力の影響が弱まり,緩和時間が短くなった.この傾向は,分子運動の活発な高温において早く拡散することから,高温ほど顕著であった.これらにより,ガラス転移過程がフィラーの付加によって高温側に,ボイドを含む場合は低温側に移動することが示唆された.3. 蛍光分光法により,形状記憶ポリマーフィルムのガラス転移過程を評価する手法を検討した.蛍光試料含浸温度を変化させたフィルムの蛍光スペクトル強度を測定した結果,ガラス転移点前後でポリマー構造変化に起因する強度変化を検出することが可能となり,ガラス転移過程を評価できる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガラス転移過程を評価するための分子力学手法の構築を行い,ソフトアクティブマテリアルの機能にとって重要な粘弾性特性を評価することが可能となった.この結果,材料内の幾何学的構造や分子運動性とマクロな粘弾性特性との関係性に関する知見を得ることができた.また蛍光試料を利用した蛍光分光法により,ガラス転移点近傍で有意な変化が見られており,材料内のメゾスケールの内部構造変化とマクロな機能特性評価との関係について評価するための手法となる可能性が高く,研究が前進したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度,ガラス転移過程を評価するための実験・解析手法を構築し,材料内のメゾスケールの内部構造変化とマクロな機能特性評価の関係についての評価が実施可能な段階まで到達した.ただし,現状ではあくまで理想化されたモデルでの実験・解析であるため,より現実の材料の評価に近づける必要がある.そこで,次年度はさらに,ソフトアクティブ材料内のハードセグメント・ソフトセグメント構造とそのマクロな機能特性との関係について検討を進める.具体的には,本年度構築した手法を利用して,異なる内部構造を有する材料の粘弾性特性の周波数依存性について検討し,緩和スペクトルを用いて最適な材料内部構造について検討を進める.ハードセグメント・ソフトセグメント構造は材料内の結晶性と深い関わりがあり,この物理的基礎を与えることは,工学的な結晶構造制御につながる可能性がある.また,材料内の残留ひずみが熱サイクル負荷下で蓄積する過程について,このようなメゾスケールでの評価が重要であると考えられるので,本年度構築した手法を応用することを検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,ソフトアクティブ材料の粘弾性特性を分子力学的に詳細に定量化することを目的とするため,実験的検証のため,粘弾性試験による評価法の構築を行う.そのための試験用材料費や実験消耗品の購入を検討している.また分子力学法による理論構築のため,数値計算研究を推進するため,数値計算用消耗品等にも使用する.また,最終年度となるため,成果報告のための旅費にも使用する.
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