バルク材では延性的な性質を有する金属においてもぜい性的な特性を呈するナノ薄膜に対して,3次元幾何学的外部構造を自己組織的に形成させることにより,高い変形裕度を有するナノ薄膜の創製法を開発することを目的とする。ここでは,基材(樹脂犠牲層)に圧縮ひずみを付与することにより,周期的な微小座屈(リンクル)構造を生成させ,その上に金属を成膜し,さらに基材を除去することにより,リンクル構造を有する自立ナノ薄膜を創製する手法を開発する。微小リンクル構造を持たせることにより,変形裕度を大幅に向上させ,しかも座屈という自己組織現象を利用するため経済性に優れる薄膜創成法となることが期待され,ひいてはMEMS等の微小部材創製に対して今までにない変形裕度向上策を提供し,MEMS開発に大きく貢献せんとするものである。 本年度は,前年度に確立したリンクル構造を有する自立ナノ薄膜試験片の作製技術を深化させ,樹脂犠牲層に独立した2方向の圧縮ひずみを段階的に付与することにより多様なリンクル構造を作製できる手法を開発した。これにより,従来のストライプ型リンクル構造に加えて,迷路型リンクル構造,およびストライプ型リンクル構造にリブ構造を付与した非対称座屈構造などの多様な構造を有する自立薄膜を実現した。さらにナノ薄膜に対して開発した薄膜用力学試験装置を用いて引張試験を実施した。この結果,(i) 種々のリンクル構造をもたせることにより弾性率や破断ひずみを大きく変化させることができること,(ii) 構造に異方性を付与することにより機械的特性の異方性を制御できることを明らかにした。さらに,リンクル構造をモデル化した3次元有限要素解析を実施し,リンクル構造によって生じる応力集中によって破壊,すなわち破断ひずみが決定されることを明らかにした。
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