研究課題/領域番号 |
23656096
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國枝 正典 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90178012)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 電解加工 / 微細加工 / ターニング / 電解液ジェット / 超硬合金 / ノズル |
研究概要 |
バイトの代わりに電解液ジェットを回転中の工作物(陽極)に当て、ノズルを陰極として電流を流し、電解作用により微細なターニング加工を行った。工作物の硬さによらず加工でき、残留応力の発生がなく、加工反力が小さく、工具消耗がなく、電流で微小な切り込み量を制御できる。これらの特長を生かして超硬合金の微細加工を行った。一般に、超硬合金の電解加工においては、工作物(陽極)面上に酸化タングステンの被膜が生成され、それ以降の溶出を妨げる。従って、電解液にNaOHなどを混入して酸化タングステンを溶解しなければ加工が進行しない。しかし、電解液ジェット加工でNaOH水溶液を用いることは環境安全上好ましくない。そこで、中性で弱毒性の硝酸ナトリウム水溶液の使用を試みた。直流電流を用いた場合、金属製ノズル内面で生成されたNaOHがジェット噴流とともに工作物上に運ばれ、酸化タングステンを溶解するので、あらかじめ多量のNaOHを混入しなくても安全に加工が行える。しかし、NaOHがジェットの最外周に分布したまま工作物に衝突するため、ジェット中心部が加工されないことが分かった。そこで、ノズルを絶縁体(セラミックス)に交換したところ、金属製のノズルホルダ内面で生成されたNaOHがセラミックスノズルに導入される前に硝酸ナトリウム水溶液と混ざり合うため、ジェット直下で選択的な加工が行えることが分かった。また、交流電流を用いた加工の場合は、工作物が陽極の間に酸化タングステンが生成されるが、陰極の間に生成されたNaOHによって溶解される。このメカニズムによって、鋼の電解液ジェット加工と同様にジェット直下で精度のよい加工が効率よく行えることが分かった。しかし、金属製のノズルが消耗する問題が生じた。そこで、直流加工と同様にノズルをセラミックス製に替えることによって、ノズル消耗の問題を解決できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加工反力が小さく、硬さによらず加工ができる放電加工や電解加工は、機械加工よりも超硬合金の加工に適している。特に、加工変質層の形成がなく、工具電極消耗がない点では、電解加工の方が放電加工よりも優れており、加工領域をジェットの衝突噴流域に限定できる点で、電解液ジェット加工は微細加工に適した加工法である。平成23年度は、陰極上で生成されるNaOHを利用して、安全な硝酸ナトリウム水溶液を用いた超硬合金の加工を可能にした点は達成度が高い。直流電流であっても、交流電流であっても、絶縁体ノズルを使用することによって、より精度のよい加工が行えることが分かった点は、当初の計画にはない大きな成果である。 さらに、電解液のジェットが工作物に衝突後、工作物面上に滞留すると、ジェットを中心にした放射状の層流が得られず、局所的な加工を困難にする。そこで、電解液ノズルと同軸上に、円環状のエアー噴射ノズルを設置し、アシストエアーの噴射により電解液の滞留を防止した。これによって安定した加工が行えるようになった。この発明も当初の計画にはない成果であり、特許出願をすることができた。 ただし、超硬合金の加工は24年度に計画していた研究内容であり、当初23年度に計画していた電解液ターニング加工装置の製作やノズル形状の最適化の研究が行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に行った超硬合金の加工の基礎実験は、研究室で過去に製作したフライス盤型の直交3軸の電解液ジェット加工装置を用いて行った。従って、ターニング加工装置の製作に必要な費用は使用しなかった。そこで、23年度の研究成果を踏まえて、24年度には超硬合金のターニング加工ができる装置を製作する。そして、任意形状の加工を試みるとともに、加工可能な軸径の微細化限界を調べる。また、微細加工のためのノズル形状の最適化を行う。さらに、アシストガスの効果についても詳細に調べ、アシストガス用のノズルの最適化を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額と、24年度の研究費の一部とを合わせて、電解液ターニング加工装置を製作する。パソコン制御可能なバイポーラ電源、卓上型ドラフト装置、工作物回転用スピンドルの購入と、装置製作費が主な使途である。また、絶縁材料を用いて円筒状、スリット状、拡張型、集束型などのノズルを購入、あるいは製作する。さらに、内径が数十ミクロン以下のノズルを購入、または製作し、微細加工を行う。
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