前年度までの研究結果を踏まえて,透過照明と反射照明との両方が可能な赤外顕微鏡を購入した。これに赤外カメラを取り付けることにより,試料であるシリコン基板に1.5ミクロン帯のレーザーを照射しながら照射部位の変化をその場観察できるようになった。 そして,顕微鏡にレーザー光を導入する光学系を構築し,実際にフェムト秒レーザーパルスの照射を行った。その結果,20倍および50倍の対物レンズを用いたときには,平均パワー100mW以上で試料表面(入射面)の形状変化(アブレーション)が観察できた。しかし,試料内部における変化(改質)は,光学顕微鏡による観察ではよくわからなかった。試料表面の照射中心部の周辺に,堆積物が観察された。ラマン散乱スペクトルから,この堆積物はSiO2であると結論した。SiO2はフッ酸によるエッチングによって除去することができたが,照射中心部の周辺にはエッチング後も盛り上がりが見られた。ラマン散乱スペクトルからこれはアモルファス化したシリコンだと推察した。 焦点を基板の裏面から表面まで掃引した試料をエッチングし,選択的なエッチングが起こるかどうかを観察した。エッチングには,KOH水溶液,フッ酸水溶液,フッ硝酸水溶液によるウエットエッチングと,CF4によるドライエッチング(RIE)を試みた。特筆すべき結果として,フッ硝酸水溶液を用いたときには,基板の裏面において選択的なエッチング(照射部位が選択的にエッチングされる)が観察された。本研究の目標である,シリコン内部において任意の三次元形状を持つ除去加工を行うことができる可能性を示している。さらに,長時間のエッチングを行ったところ,照射部位には通常のシリコン結晶以上にエッチングされにくい物質も生成していることが明らかになった。
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