本年度は無充てんポリビニルアルコールハイドロゲル(PVA-H)およびリン酸三カルシウム(α-TCP)充てんPVA-Hの摩耗特性について検討を進めた。PVA-Hは含水率が約80%あり生体組織とほぼ同じであることから人工軟骨候補材としての検討が進められているが、それゆえ、摩耗量の測定が困難である。PVA-Hを人工軟骨として考える上で、その耐摩耗性は最も重要な特性の一つである。従来の手法では定性的に摩耗量を評価するか、水中への溶出量から間接的に測定していた。本課題では、PVA-H表面にグラファイト微粒子を薄く、かつ均一に塗布し、レーザー変位計で摩耗軌道面断面形状を直接計測することで、ゲルのような高含水率かつ柔軟な物質の摩耗量を直接測定する方法を考案した。 本測定法を用い、無充てんPVA-Hおよびα-TCP充てんPVA-Hを研摩紙とピンティスク型摩擦試験機により摩擦し、摩耗に及ぼすα-TCP充てんの効果を調べた。その結果、本測定法によりPVA-Hの摩耗量を直接測定することができた。このとき、無充てんPVA-Hおよび -TCP充てんPVA-Hの摩耗量はほぼ同じであった。また、垂直荷重を変えた実験では、無充てん、α-TCP充てんに関わらず荷重の増加とともに摩耗量が増加し、その増加の割合は同じであった。以上より、アブレシブ摩擦ではα-TCP充てんの効果は見られないことが分かった。なお、前年度までの結果より、PVA-Hにα-TCPを充てんすると弾性率が向上することが分かっている。摩耗実験後、摩耗軌道上を摩擦方向にレーザー変位計を用い断面形状を測定した。その結果、無充てん、充てんに因らず摩擦方向と垂直方向に一定間隔で鋸刃状のアブレージョンパターンが形成されていた。アブレージョンパターンは主にゴム材料の摩耗面に形成されることから、PVA-Hの摩耗形態がゴム材料と類似することが判明した。
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