研究課題/領域番号 |
23656136
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中部 主敬 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80164268)
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研究分担者 |
巽 和也 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90372854)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 単細胞選別 / 流体計測 / せん断流れ / 電場強度分布 / 静電泳動力 |
研究概要 |
生体の単細胞とくに赤血球(RBC)に注目して,微量血液サンプル中で特定のRBCだけを高速かつ連続的に選別する方法を新規に開発することを目的に,研究開始の今年度はRBCに代えて取り扱いの容易な球状ポリスチレン粒子を選別対象とし,マイクロ流体デバイスの初期設計・製作を行ってその性能を実験的,数値的に評価した.とくにサンプル粒子の移動経路に関する数値予測と可視化画像処理の結果は良好に一致し,本数値解析手法ならびに実験系の妥当性を確認することができた. この成果を次年度に向けて発展させ,より高性能な流体デバイスが構築できれば,極微量の単細胞サンプルから正常な単細胞の特徴を有しない単細胞だけを連続的に,高速に検出・選別する確固たる方策が提案できる.今後の更なる高齢化に伴う病気治療頻度の増大や地球温暖化に伴う伝染病の蔓延等に備えた初期診断には迅速,簡便,正確,低コスト,省スペースであることが要求されるが,現状ではこれらの要求にそぐわない試験管規模の容量の血液を要するバッチ処理測定あるいは手間隙の掛かる個別RBC標本採取の多数回繰り返し測定が行われている.この現状を打破し,要求に沿うものを実現するためには,単細胞選別性能をさらに向上させる必要がある.また,現在,選別対象としているポリスチレン粒子から本来のRBC等の単細胞に代えても本流体デバイスが思い通りに駆動するかどうかを早急に調べる必要もある.しかし,今年度に得られた結果の示すところから研究方針・方策は妥当であり,構築した数値解析手法,実験系を駆使して電極性能向上のための形状,配置の詳細な検討が行える目処は立ち,速度場を整えた流路に微量サンプルを流して特定の単細胞だけを非対称に歪曲させた電場でシームレスに分離・選別すること学術的にも極めて意義深い内容となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はマイクロ流体デバイスの初期設計・製作を行い,その性能を実験的,数値的に評価することができた.選別対象はRBCではなく,それと同程度の寸法の球状ポリスチレン粒子を用いたが,これは対象を扱いやすいもので代用し,単細胞選別のためのマイクロ流体デバイスの早期製作を図ったためである.また,3分枝合流可能なセクションを有するマイクロ流路ならびに各分枝からの供給溶液流量の変動を極力抑えるための小型加圧式ポンプを設計,製作した.薄膜電極についてはその形状と配置が,粒子に作用する誘電泳動力の大きさと方向に多大な影響を及ぼすため,電場強度分布とそれに対応する誘電泳動力についての詳細な3次元数値解析を行った上で慎重に設計,製作した. 次にこれらのマイクロ流路,ポンプ,薄膜電極を組み合わせて実験系を構築し,ポリスチレン粒子の流れる様子を顕微鏡,高速度ビデオカメラで可視化した.光源の明るさや視野倍率の関係で数mm/sの速さで顕微鏡視野内を移動する10μm程度の粒子を可視化することに手間取ったが,粒子を追跡して,その経路が選別用薄膜電極の設置位置まで滑らかに,思い通りに誘導できていることを確認した.一方で,流体の速度場ならびに薄膜電極によって発生する歪曲電場を連成解析し,固体粒子の移動経路を数値的に予測した.その結果,数値予測された粒子の移動経路は可視化画像から得られたものと良好に一致しており,実験系および計算手法の妥当性が確認された.そこで,高い粒子選別性能を得るために様々なデザインの電極形状,寸法,配置を試すのに電極製作は取り止め,本数値解法を駆使して粒子移動経路を算定し,最適な電極を選定することにした.現在,有力候補としては細棒の電極と半月形のグラウンド電極の組み合わせに絞り込みを行っている最中で,それに対する実験系の構築を進めている段階である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果として得られた粒子移動経路の可視化画像処理結果と数値解析結果との間の良好な一致は,実験系および計算手法の妥当性を示している.そこで本計算手法を駆使して現在,有力な電極構造の候補として細い棒状の電極と半月形状のグラウンド電極の組み合わせに絞り込みを行っており,次年度前半において高性能粒子選別可能な電極形状,寸法,配置の算定を早急に終え,それに基づくマイクロ流体デバイスの設計・製作を新たに行う.デバイス自体はこれまでと違い自作をせず,外注することで各部寸法,形状の精度を高めたものを製作することにする.予算的には本年度後半が数値解析による最適電極算定が主体であったため,薄膜電極付設の流体デバイス外注,新たな実験系構築は本年度配分研究費の一部を取り置くことができており,それを次年度に繰り越して研究推進に充てる. 新たなデバイスについての選別性能の確認,向上が確認されれば,単細胞に対する誘電泳動力を望みのタイミングで発現できる連携システムや流体温度モニタのための回路設計,製作も行い,単細胞の接着・離脱制御が可能となる.可能ならRBC以外に白血球等その他の単細胞に本手法を応用展開し,年度末に本研究を総括する.
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のとおり,現在において最有力と考えられる電極構造の候補として細い棒状の電極と半月形状のグラウンド電極の組み合わせについて早急に検討を加えて,最終案に基づき本年度の繰越研究費を充当して薄膜電極付設のマイクロ流路の製造を外部業者に依頼する.一方で,選別された単細胞を特定のチャネルセクションに収集し,何らかの処理を施した後にはそこから単細胞を離脱させる方策も検討する必要のあることに思い至った.それゆえ,研究費繰越と外注によって加速可能と思われる単細胞選別法の研究の一環として離脱方法も追加し,数値計算,実験の両面から模索することとした.この他の研究費使用計画は当初のとおり執行する予定である.
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