マイクロスタンプによるリン脂質の転写と生成GUV(Giant Unilamellar Liposome)の直径測定: 本手法により,生成したリポソームが接触振動することで融合していく様子を観察することができ,個々のGUVの成長率の測定をすることはできた.その結果,支持液の粘性によってきまる特定周波数において融合率が高いことが確認できた. GUVの生成率と生成挙動の観察: GUVの生成率を,パターニングした浅い溝に装填したリン脂質に振動流を加えることで発生するGUVを,共焦点顕微鏡で観察すると同時に,その直径分布と数密度の測定をおこなったところ,これまでの予備実験で得られた結果と異なり,イオン濃度に対して強い依存性があることが見出された.そこで,リン脂質を塗布する基板の材質や塗布密度を変えて,GUV生成実験を繰り返したところ,GUVの生成にはリン脂質を塗布する厚さが一定以上必要で厚すぎないこと,基板は疎水性である必要があること,がわかった.さらに,イオンの種類をKClとPBS水溶液として,濃度を幅広く変化させてGUVの生成を観察したところ,イオン種によらず,イオン濃度が1.5mM程度でGUVの生成量が1/10になることが分かった.このことは,高イオン濃度水溶液中のエレクトロフォーメーションでGUVが生成できない理由として,高導電性溶媒によるリポソームへの電気力の喪失以外にも,リン脂質自体がイオンの影響を受けてリポソームのような形態になりにくいことが大きな要因であることが示唆される. 以上より,提案した振動流を利用したGUVの生成法では,リポソームが存在すれば融合・合体を促進できる可能性があるが,融合する元となるリポソームを高イオン濃度水水溶液中で多数生成されないことから,研究の本来の目的である”高電解質濃度を内包したリポソーム”の生成を実現することは困難であることがわかった.
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