実現が困難とされている魚卵の凍結保存技術を開発すべく、卵膜の親水性を利用して液体メニスカスにより外表面を包み、緩慢冷却によってこれを粥状に凍結して細胞膜を固定する保護層を形成し、その後に全体を急冷する新たな凍結保存法の有効性を検証した。メニスカス溶液には、凍結や乾燥から細胞膜を保護する物質であるトレハロース水溶液を用い、魚卵凍結時の体積膨張破壊を防ぐために、常温での減圧乾燥による脱水処理を加えた。これらにより、氷晶生成による機械的・化学的ストレスを低減することが可能と考えている。 実験試料には、凍結と解凍後の形状観察が容易なことから、サイズの大きいサケの卵(イクラ:直径7~10mm程度)を用いた。これを保持するメニスカスホルダーを試作し、卵とホルダーとのクリアランス、卵の予備脱水量、メニスカス溶液の種類と濃度、さらには3段階冷却法における冷却速度をパラメータとした実験を行った。 その結果、25%のトレハロース水溶液を用い、凍結前に約15%の減圧脱水を行った後に3段階冷凍を行うこと、ならびに、解凍を5℃の空気中での緩慢解凍とすれば、細胞膜の損傷が抑えられ、イクラの形状を維持したまま解凍できることがわかった。 特に、メニスカスホルダーに関し、初年度には線径0.7mmの金属線をコイル状に成形し、0.2mLのメニスカス溶液を魚卵周りに保持したが、2年目では線径を0.3mmと細くすることにより、メニスカス溶液を約0.07mLに微量とし、メニスカス液膜の平均厚みを約0.017mmに薄くすることに成功した。その結果、解凍時のイクラの形状保存割合をほぼ100%までに高めることができ、本手法の有効性が明らかとなった。
|