研究課題/領域番号 |
23656163
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 健太郎 東京工業大学, 精密工学研究所, 教授 (20242315)
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キーワード | 超音波 / 非接触 / 搬送 / 液滴 / 放射力 / 混合 / 滴下 / 分注 |
研究概要 |
製薬、各種分析、新材料創製などの分野では微少量の液体をどこにも触れることなく輸送することが望まれている。本研究では、超音波放射力により液滴を空中にトラップできることに着目し、液体を浮かせながら搬送する、いわば「非接触液送パイプ」の技術を生み出す。このためには、直線搬送、回転、搬送路間の受け渡しその他の操作を実現する必要がある。 前年度に直線搬送路については予定上の進捗があったが、その実験の過程で、液滴同士の混合や、混合した液滴の滴下も超音波放射力の制御により可能であることを見出した。そこで平成24年度は、2つの液滴の混合と1つの液滴の滴下について、それを実現する振動系、音場の制御法を検討した。 混合については、円環状振動子の内側に円筒形の反射体を配置し、それらの間に発生させた超音波音場の異なる音圧節に2つの液滴を浮揚させ、これらを浮揚させたまま衝突、混合する方法を検討した。すなわち、(1)振動円環をわずかに動揺させて、音場分布や強度に擾乱を加える方法、(2)振動子駆動電圧を振幅変調する方法の2つを試した。(1)の動揺させる方法では、混合に成功したものの再現性はあまり高くなかった。一方、(2)の振幅変調法によると再現性の高い混合が可能であった。また、変調周波数により、液滴の動揺振幅が変化することを見出した。これは、液滴に働く音響放射力による節位置へ向かう復元力と液滴の質量で決まる一種の機械共振現象であることが説明できた。再現性の高い混合を行うための変調周波数、変調の深さを実験的に調べた。 滴下については、反射板に穴をあけ、そこから滴下する構成を考案し、穴の大きさと浮揚力の関係を実験と音場の有限要素解析で調べ、浮揚・滴下可能な液滴直径を明らかにした。 以上のように、混合や滴下も非接触で行えることを示せたことは、本技術の応用範囲を広げる成果と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初研究計画では液滴を非接触で浮揚、搬送することを目的に設定したが、初年度に基本的な直線搬送に成功した。2年目の当該年度は、液滴の混合、滴下まで実現できた。これにより、液滴の非接触搬送系の実現という目的に対して、当初予定以上に高度な機能性を付加することができた。 これらの機能性まで総合すれば、より応用範囲の広い非接触搬送系へと発展するので、今後、より総合的な研究テーマとする構想を得ることができた。今後、さらなる機能性の付加を行いたい。また、基本的な直線搬送については、基礎動作を実現したものの、搬送経路の蛇行などがあった。これを抑圧する方法を考察することができたが、実験を行うまでは至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
振動子駆動電圧を変調することで、浮揚液滴が振動するなどの挙動を示すことが平成24年度の研究でわかったので、この現象を利用して、液滴の質量、粘性、表面張力などの性質を測定することができるか検討する。 多数液滴を同時に浮揚させ、等間隔でウエルが配列したウエルプレートに同時に多数液滴を滴下(分注)する方法を開発する。このために、反射板に周期的に多数の穴をあけた場合の音場の性質について理論的、実験的に検討する。 直線搬送の安定性向上のために、アレイ振動子の活用など、音場の制御性が高い振動系を考案、開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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