本研究の目的は、真社会性を持つ昆虫である蟻を対象に研究を進め、コロニー形成メカニズムをシミュレーションによって理解することである。まず、採餌効率を指標として、最適化という観点で蟻の利他的行動や分業の有効性についてシミュレーションによる解析を行った。以下に、研究成果の概要を述べる。 (1) モデル化とシミュレータの構築: 行動生態学で観察実験により得られている蟻の行動に関する知見をモデル化し、有限オートマトンを用いたミクロモデルと個体の時空間密度の期待値を導入した偏微分方程式をベースにしたマクロモデルを導出し、シミュレータを構築した。まず、フェロモンコミュニュケーションと接触コミュニュケーションのモデル化を行なった。フェロモンの拡散を差分方程式を用いてモデル化し、蟻の採餌におけるフェロモンを用いた他個体の誘引行動を有限オートマトンでモデル化した。また、接触することにより他個体のタスクの優先度を検知し、自己のタスクの優先度を変化させる行動を有限オートマトンを用いたミクロモデルと状態遷移確率を導入した偏微分方程式を用いたマクロモデルで表現した。生物実験により得られている観察結果をミクロモデルとマクロモデルを用いてシミュレートし、得られたシミュレーション結果を比較することでモデルの妥当性を検証した。 (2) 行動戦略の最適化と工学的応用の検討: 構築したシミュレータを用いて採餌効率を指標として、最適化という観点で利他的行動や分業の有効性について検討した。まず、蟻のフェロモンコミュニュケーションによる他個体誘引行動や接触コミュニュケーショによる分業行動の採餌効率に対する影響のシミュレーションによる考察を行なった。また、行動生態学研究において実験的観察から得られている蟻の行動規範の仮説の妥当性を、特に穴埋め行動に着目し,シミュレータを用いた採餌効率の最適化といった観点で議論した。
|