研究概要 |
昆虫の嗅覚受容体をラットの神経細胞の分散培養系(培養神経回路)へ遺伝子工学的に発現させた匂いセンサーを提案・試作し,その設計解の妥当性を評価する.本提案では,バイオ材料と半導体技術を融合させるバイオ-シリコン・ハイブリッドセンサーの設計解として,(i)昆虫の嗅覚受容体を感材料に,(ii)ラットの神経細胞をプリアンプに,(iii)神経回路をメインアンプに用いることで,(i)'バイオ材料の容易な機能発現,(ii)'長寿命,(iii)'高感度な計測手法を実現する.学術的には,本研究は,高感度な匂い識別機構を構成的に実現する挑戦である.特に,神経回路をメインアンプとして利用するということは,生体の計算システムの利点を直接検証する試みでもあり,次世代の情報処理システムの設計指針を提供する足がかりとなる可能性がある.本研究では,特に,微小電極によるフェロモン刺激によって,フェロモン受容体を導入した神経細胞におけるカルシウム応答の再現性改善を試みた.その結果,5回のフェロモン刺激後全てにおいて,50%~60%のカルシウム応答の上昇が示され,カルシウム応答の再現性を改善した.さらに,フェロモン受容体をリポフェクション法で導入した神経細胞が,匂い刺激の濃度に応じて,時空間的な神経活動パターンを変化させるかを検証した.その結果,フェロモン受容体を発現した神経細胞のみならず,発現していない神経細胞もフェロモン刺激に対して同期したカルシウム応答を示し,匂い刺激の濃度に依存した活動パターンを示した.したがって,原理的には,時空間的な経活動パターンから匂いを識別できる.
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