従来の匂いセンサーは、生体の嗅覚系と比べると、感度、識別できる匂いの種類、及び応答時間の点で大きく劣る。生体の優れた匂い識別は、嗅覚受容体の非常に高感度な分子認識能力と、神経回路による情報処理によって実現すると考えられている。本研究は、このような生体の優れた匂い識別機構に注目し、昆虫の嗅覚受容体をラットの神経細胞へ発現させた匂いセンサーを提案する。このような生体材料を組み合わせることの利点は、容易な機能発現、センサーの寿命の長期化、嗅覚受容体が発生した微弱なイオン電流から容易に計測できる活動電位への匂い信号の増幅機能である。カイコガのフェロモン受容体と共受容体(BmOR1とBmBmorOrco)をリポフェクション法でラットの神経細胞の初代分散培養系へ発現させたところ、発現効率は8%で、受容体は膜表面への局在を示した。カルシウムイメージングでは、匂い物質刺激に対して、嗅覚受容体を発現した細胞と発現していない細胞は、共に濃度依存的なカルシウム応答を示した。これらの結果は提案したセンサーの実現可能性を示す。
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