研究課題/領域番号 |
23656181
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
丸尾 昭二 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00314047)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | マイクロマシン / マイクロ光造形 / バクテリア |
研究概要 |
本研究では、マイコプラズマモービレ(M. Mobile)と呼ばれる滑走バクテリアのランダム運動による衝突エネルギーを利用して、一定方向に回転するバイオマイクロモーターの開発を目指している。M. Mobileは、足に相当する部分を基板や壁に接着させて滑走し、壁の角度によって、壁に追従したり、壁から離れる、あるいは鋭角な角では直進運動を続けるなどの特異な運動特性がある。この特性を利用したバイオモーターとして、ローターに鋭角な切れ目を入れたブレードをもつフラワー型モーターを考案し、数値解析および実験的検証を行った。解析では、ローターにM. Mobileを誘導するガイド壁とローターを設定し、モービレ数やローターのブレード数(2,4,8枚)を変化させて、回転特性を解析した。自作の解析ソフトウェアでは、モービレが壁やローターと衝突したときに、どのように運動するかという動作パラメータとして、モービレの運動挙動特性を調査した予備実験で得られた各種動作の発生確率を反映させた。その結果、2枚羽根のフラワー型ローターが最も効率的に回転することがわかった。そこで、2光子マイクロ光造形法によって各種ローターを試作し、M. Mobileの衝突による回転検証実験を行った。その結果、実験的には、2枚羽根よりも4枚羽根がもっとも回転しやすいことがわかった。この原因を追及するために、各ローターのブラウン運動を調査した。その結果、2枚羽根ローターのブラウン運動が最も激しく、4枚羽根ローターが最も安定していることがわかった。これらの結果から、高効率に回転するローターの開発には、ブラウン運動を抑制し、ローターを安定回転させることが不可欠であることがわかった。そこで、造形したポリマー製ローターに無電解メッキを施し、金属化する実験を行い、銅メッキしたローターの作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
M. Mobileのランダム運動による衝突エネルギーを利用して、一定方向に回転するバイオマイクロモーターの開発に向けて、回転特性をシミュレーションする解析ソフトを開発した。また、2光子マイクロ光造形法によってマイクロローターを試作し、その駆動検証実験を行った。シミュレーションソフトの作成では、従来の単一ローターの回転をシミュレーションするソフトを改良し、ローターにM. Mobileを誘導するガイド壁を設置したソフトを開発し、実際に羽根枚数の異なる3種類のフラワー型ローターの回転シミュレーションを行った。検証実験では、シミュレーションに用いたローターを高精度に造形できたが、シミュレーションで得られた最適形状のローターが最も回転するという結果は得られなかった。この原因を調査した結果、回転の安定性が、ローターのブラウン運動の大きさに依存していることがわかった。そこで、無電解メッキを用いてローターを金属化させて、ブラウン運動を抑制することを検討した。実際に、無電解銅メッキによって金属化ローターを作製する段階まで到達した。したがって、若干の計画の変更はあったが、おおむね計画通り進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度開発したソフトウェアを用いて、より高効率に回転するローター形状を探索する。具体的には、昨年度まで検討していたフラワー型ローターの形状では、羽根枚数を増加させる際に、羽根の切り込み角度が羽根枚数に依存して変化してしまうという課題があった。このため、回転特性の羽根枚数依存性を調べる場合に、厳密な比較が困難となる問題があった。そこで、羽根枚数を変更しても、各羽根の形状が変化しない新たなフラワー型ローターを検討し、羽根枚数による回転特性の変化を詳細に解析する。そして、得られた最適なローターを、2光子マイクロ光造形法によって試作し、ブラウン運動の影響を調査する。その後、最も安定したローター形状を決定し、無電解メッキによる金属化マイクロローターを作製する。最終的には、金属化マイクロローターをM. Mobileによって駆動する検証実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、シミュレーションで得られたローターを造形するための造形装置および回転観察装置に用いる光学部品や、造形物の洗浄などに用いるガラス器具や試薬、さらには無電解メッキに用いる試薬などを購入する予定である。また、シミュレーションにおいて大容量メモリーが必要となった場合には、ワークステーションの購入が必要になる可能性がある。そのほか、成果発表を行うための旅費、英文校閲料、論文投稿料などにも利用する予定である。
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