本研究では、マイコプラズマモービレ(M. Mobile)と呼ばれる滑走バクテリアのランダム運動による衝突エネルギーを利用して、一定方向に回転するバイオマイクロモーターの開発を目指した。昨年度は、M. Mobileの特異な滑走特性の1つである鋭角な角に入った場合に直進運動を続けるという特徴を活用した高効率なバイオモーターとして、鋭角な切れ目をもつフラワー型モーターを考案し、数値解析および実験的検証を行った。しかし、実験では解析通りの特性が得られなかった。今年度は、この問題を解決するために、解析と実験において改良、改善を試みた。まず、解析では、昨年度のフラワーモデルの問題点として、羽根枚数の増加に伴って、羽根の角度が変化してしまう点を改善するために、羽根の角度が羽根枚数に依存しない新型ローターを設計し、羽根枚数による回転特性を評価した。その結果、羽根枚数が増えるにしたがって、回転数が大きくなることが確認できた。また、滑走するM. Mobileの数を変化させた結果、滑走数の増加にともなって、回転数が飛躍的に大きくなることも確認した。この回転数の増加傾向は、羽根枚数が多いほど、顕著であることから、羽根枚数とM. Mobileを増加させることで高効率なバイオマイクロモーターの実現が可能であることがわかった。一方、実験では、昨年度の課題であったブラウン運動によるローターの不安定性を改善するために、無電解メッキによる金属化ローターの高精度な作製と、回転駆動実証に取り組んだ。実際に、種々の形状の金属化ローターを作製し、有機溶媒中で光による駆動を確認することができた。しかしながら、M. Mobileの培養液中では、ローターの吸着現象が発生し、ローターを安定かつスムーズに回転させることができなかった。今後、金属化ローターの吸着防止策を検討する必要がある。
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