研究課題/領域番号 |
23656183
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
江上 力 静岡大学, 工学部, 教授 (70262798)
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キーワード | 微粒子 / 顕微鏡 |
研究概要 |
本提案手法は直径数百ナノメートルの微粒子単体の表面及び内部の光学定数分光計測を目指すものである.初年度であるH23年度はベクトリアル偏光干渉共焦点顕微鏡の最適化設計を行った.ジョーンズマトリックスモデルを利用し,微粒子からの異方性散乱を理論的に計算した.被測定物体のバックグラウンド(光学的に均一な等方性領域からの散乱)信号を参照光との偏光干渉ベクトリアル差分計測により強制的に抑制することで極微小領域に生じる僅かな感受率変化をコントラストエンハンスト画像として再生することができる.同偏光干渉計にはマイケルソンタイプの光学系を利用する.共焦点レーザ顕微鏡内にマイケルソンベクトリアル差分偏光干渉系を構 築するには,光軸近傍,焦点近傍の電界ベクトルについてのみベクトル差分を実現可能な偏光干渉系を設計する必要がある.しかも多波長同時励起が可能な光学系を目指すため,多波長下での各種収差条件(色収差,波面収差等)を考慮した光学系の設計が非常に重要となるため,それらパラメータを考慮し最適な光学系の条件を算出した.以上の最適化設計によりコントラスト分解能を大幅に高めることが可能であることを示唆する理論的な結果が得られた.それら得られた成果はシドニーで開かれたオーストラリア物理学国際会議にて発表し,異分野である環境分析の研究者からも強い関心を頂いた.これまで微粒子の物理・化学計測はある程度マスとしてのマクロな量でしか計測できなかったため,DDS(drug delivery system)応用のみならず環境計測へも十分応用が期待できることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は科学研究費予算が大幅に減額されるかもしれないとの報道があり,本来必要な高価な光学部品等の購入を当初控えて研究を行った.そのため特に再生照明系の基本形を構築する実験などで多少の遅れを生じていた.今年度はその遅れをほぼ取り戻すことができたため,最終年度である次年度にて実際のベクトリアル偏光干渉計測を実施する.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるH25年度では,下記に示す顕微システムトータルを構築し,実際の3次元影像を行う. 参照信号と均一バックグラウンドからの非線形散乱信号とのベクトル差分を極力ゼロに抑え,被測定物体からの不均一ナノ領域から生じる僅かな差分ベクトルの変化を検出する顕微システムを作成する.昨年度までに同顕微システムの理論的な側面(ジョーンズマトリックスによる偏光ベクトル解析)からの研究と実験的な側面(コントラスト分解能の評価)からの研究をほぼ終え,実際に生体サンプルを利用して,ナノ領域での3次元影像を試みる.コントラスト分解能の評価データからは同顕微システムの入力レーザ光の光強度に対して,非線形的に分解能が向上することも確認できた.これにより線形顕微鏡ではほぼ不可能だった波長以下でのナノ計測がほぼ可能であることも実証できた. 今年度で同補助金にて援助頂く研究期間は終了するが,これをステップアップとして次年度以降に上位の科学研究費補助金申請へとつなげる予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
上記”現在までの達成度”の項目にて記述したが,H23年度に報道された大幅な予算減の可能性を危惧して物品購入を見合わせていたため,比較的大きな予算を使用できずに24年度,25年度と順次予算失効を繰り越してしまった.そのため最終年度はこれまでに購入できなかった各種収差補正光学部品や電子部品を購入する予定である.特に多波長光源導入を目指したオートコリメータ光学系の構築を試みるため,それに関する各種部品においての支出を計画している.得られた当初成果を国内外の学会や学術雑誌にて積極的に発表する予定である.
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