本年は,磁性流体を利用したエネルギーデバイスとして,まず,柔らかいトランスを実現するための基礎実験を行った。断面10mmφ,直径80mmφのトーラス状のガラス管を製作し,1次と2次のコイルを巻くとともに,ガラス管を磁性流体で満たした。1次側コイルに60Hzの交流電流を流すことで,2次側コイルに60Hzの電圧が誘起されることが確認された。また,2次側コイルに抵抗負荷を接続することで,電力の計測を行った。1次側,2次側の巻数は,ほぼ同じであったが,2次側には,1次側の30分の1程度の電圧しか誘起されず,磁性流体の磁気抵抗が大きすぎて,2つのコイルの結合が弱いことが分かった。インピーダンスメータを用いて,コイルのインダクタンスを測定して,この値より比透磁率を評価したところ,比透磁率13という値が得られた。この値は,トランスとしての利用を考えるためには,全く不十分であり,磁性流体の透磁率を向上させる何らかの改良が必要であることが明らかとなった。一方,外部からの力を電気エネルギーに変換するエネルギーハーベスティング素子については,内径15mmφのゴムチューブ(長さ120mm)に磁性流体を充填し,両端をピンチコックで止めたものを用意し,このチューブのまわりに約2300ターンのコイルを配置した。外部から希土類磁石で磁界を加えながら,ゴムチューブを指で押したところ,コイルに10mV前後の電圧が誘起された。磁性流体を満たしたゴムの形状や,磁石とコイルの配置など,まだ,不明な点が多いが,磁性流体を用いて外力を電気エネルギーに変換できた点で,1つの目標を達成することができた。
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