研究課題/領域番号 |
23656202
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
内田 諭 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (90305417)
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研究分担者 |
和田 圭二 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (00326018)
鈴木 敬久 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (30336515)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノパルス / 酵母 / マイクロリアクタ / 細胞数値モデル / 遺伝子発現 |
研究概要 |
本研究の目的は、マイクロリアクタ内に精密配置した酵母細胞にナノパルス電界を印加して、その動態変化を計測するとともに、細胞モデル解析及び増幅遺伝子評価から局所瞬時電界と遺伝子発現の相関を検証するものである。要素技術の確立から、ナノパルス実験での検証に至る一連の研究に対して、【課題1 パルス電源製作】(ナノパルス電源装置の設計・製作)、【課題2 印加試験・動態計測】(酵母細胞に対するパルス電界印加試験及び細胞動態変化の染色計数計測)及び【課題3 モデル解析・発現評価】(細胞数値モデルの構築、電界照射量の数値解析及び遺伝子発現のPCR評価)における各目標を達成するとともに、課題間の密接な連携によって研究全体を推進する計画である。 本年度(平成23年度)は要素技術の確立を主目的として、(1)回路パラメータ計測とナノパルス発生回路の設計、(2)半導体ナノパルス電源の試作評価、(3)マイクロリアクタの設計・試作及び印加試験、(4)細胞数値モデルの構築及び細胞電気定数の導出を行った。(1)に関しては、模擬負荷におけるインピーダンス及び位相角を確認し、論理回路ゲートアレイを利用したナノパルス発生回路を設計した。(2)に関しては、(1)で得られたデータを元に、波形の精密制御が可能なパルス電源(最大電圧振幅100 V、最小パルス幅80 ns)の開発に成功した。(3)に関しては、ギャップ0.2 mmの耐圧処理リアクタを新たに作成し、印加試験を実施した。(4)に関しては、大腸菌及び酵母に対する細胞数値モデルを構築し、電圧振幅に対応した定常静電界分布を導出した。また、交流インピーダンス計測を行い、パルス幅に対する動態変化とインピーダンスの相関を定量的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【課題1 パルス電源製作】において、設計試作した波形可変パルス電源は当初予定していた最小パルス幅に迫る出力が実現されている。最大電圧振幅については、十分な値であるとは言えないが、リアクタ一体型電源の設計を最適化することにより、更なる改善が可能であると考えている。なお、本研究成果の一部は、新規性・有用性の観点から学術的価値があり、電気学会論文誌D(産業応用部門誌)に掲載されている(13. 研究発表の項を参照)。 【課題2 印加試験・動態計測】に関しては、蒸着・エッチング工程による電極作成ではなく、より簡易な組み立て式を採用し、細胞処理に適したマイクロリアクタを設計試作した。さらに、課題1で作成した波形可変パルス電源と接続して、実際にパルス印加実験を行い、パルス幅に対する代謝活性(主に生殖活性)の変化を核酸染色により確認することができた。本結果の詳細は国際会議(International Union of Microbiological Societies 2011 Congress)および国内会議(電気学会パルスパワー・放電研究会)にて発表している(13. 研究発表の項を参照)。 【課題3 モデル解析・発現評価】については、当初予定していた多層膜の細胞数値モデルの構築は完了できた。実験的検証として、インピーダンス変化との整合性も確認されたため、構築した細胞モデルの妥当性が示されたと言える。定常時のリアクタおよび細胞内の電界分布については、静電界解析から導出できた。ただし、時間変化を伴う解析への対応には課題が残っており、次年度も引き続き検討を進めて行く予定である。 以上より、本年度の研究においては当基金を有効に活用し、到達目標を概ね達成できていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(平成24年度)は、本年度に得られた基本的知見とナノパルス印加試作機を用いて、ナノパルス印加による細胞動態変化の実証試験を遂行するため、各設定課題に対して以下の取り組みを行う。 【課題1 パルス電源製作】電源とマイクロリアクタ間の配線インダクタンスを低減するため、リアクタ端子間と結合した一体型波形可変電源に改造する。さらに前処理として誘電泳動操作による酵母の精密配列を行うため、一体型電源に交流電圧(電圧振幅5 V、周波数100 kHz)との波形交替機能を持つ半導体スイッチ回路を実装する。 【課題2 印加試験・動態計測】上記課題にて、製作した波形交替型マイクロリアクタ-ナノパルス電源を用い、ポリスチレン標準粒子(粒径2ミクロン)に対する泳動配列及びパルス印加操作の試験を行い、泳動状況やパルス波形のひずみから装置性能を評価する。更に電圧振幅、パルス幅やパルス数などのパルス印加条件に対する染色酵母細胞の動態変化(膜損傷・不活性化)をフローサイトメーターにより連続的に計数計測する。 【課題3 モデル解析・発現評価】本年度に構築した細胞数値モデル及び誘導電界計算コードを用いて実験条件における数値解析を実施し、細胞内に誘導される電界の時間発展及び空間分布を把握する。また、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により得られる発現遺伝子の情報を上述の数値解析結果と比較し、局所瞬時電界と遺伝子発現の相関を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記で示した研究の推進方策に基づいて、ナノパルス印加による細胞動態変化の実証試験を遂行するため、次年度の研究費を以下の項目で使用する予定である。 <消耗品費>菌体用試薬(培地、アルコール等)・容器(シャーレ、遠沈管、ピペットチップ等):酵母の培養・調整・保管に使用する。リアクタ材料(ガラス板、Ag及びNi粒、銅端子等):リアクタの構成部品として購入する。半導体素子・制御部品(MOSFET、FPGA、スイッチング素子、電子基板、抵抗、電界コンデンサ等):ナノパルス電源の構成部品として購入する。PCR用試薬キッド: PCR計測における酵母の遺伝子同定に用いる。フローサイト用試薬: フローサイト計測における酵母染色剤として選定したものを購入する。 <国内・外国旅費>電気、静電気及び応用物理学会等への参加及び成果報告するために使用する。また、国際会議における速やかな成果公表と情報収集にも支出する。 <謝金>研究を一段と推進するため、実験補助及びデータ整理を行う要員(非常勤のアルバイト)を雇用する。また、成果をまとめた投稿論文を校閲するための業者委託費に支出する。 <その他>上記で示した学会参加費及び論文投稿料に支出する。
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