研究課題/領域番号 |
23656218
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
梶井 博武 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00324814)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 電子・電気材料 / 電子デバイス / 有機導体 / 分子性固体 / 光物性 / 有機発光トランジスタ |
研究概要 |
有機ELと有機トランジスタを融合した有機発光トランジスタは、有機ELディスプレイにおける駆動回路が一体化することにより作製プロセスが単純化できる可能性がある。有機ELにおいては、一重項励起子による蛍光材料より三重項励起子を用いた燐光材料を用いることで、高効率な発光素子が達成される。そこで、高効率な発光トランジスタを実現するため、液晶能を有する共役ポリマーが熱処理により自己組織的に配列する現象を利用し、有機トランジスタに光機能を付加する方法として、熱拡散による共役ポリマー薄膜中への燐光材料の拡散の制御を試みた。 有機発光トランジスタのソース・ドレイン電極にindium-tin-oxide (ITO)を用い、有機薄膜作製後に、ゲート絶縁膜としてポリマー絶縁膜を用いたトップゲート構造を検討した。有機薄膜中への赤色燐光材料の熱拡散の影響を調べるため、熱処理過程に伴う薄膜の電子光物性を調べ、熱拡散条件の最適化を行った。そのため、高分子膜中へのドープ濃度勾配を比較検討するため、PL測定等の光学測定やX線光電子分光分析装置による測定を行った。フルオレンの基本骨格であるポリアルキルフルオレン結晶性薄膜を用いた有機発光トランジスタから青色発光が得られ、赤色燐光材料であるtris[1-phenylisoquinolinato-C2,N]iridium(III) (Ir(piq)3)を拡散ドープさせた有機発光トランジスタからは、Ir(piq)3に対応する赤色燐光が得られた。有機層/絶縁膜界面にキャリアが伝導する赤色燐光有機発光トランジスタの作製に成功した。更に、縦方向の伝導を調べるため、ITO電極を用いた縦型素子である有機EL素子を作製し、作製条件の変化の伴う特性変化から、燐光材料の高分子膜中への拡散状況を調べ、現状では、膜中で不均一にIr(piq)3が拡散していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発光デバイスにおいて効率が重要な要素であり、有機ELデバイスにおいては、一重項励起子による蛍光より三重項励起子を用いた燐光材料を発光サイトとして用いた場合に、理論限界に近い高効率な素子が達成されているが、有機発光トランジスタにおいては、まだ達成されていない。本研究では、高効率な発光高分子トランジスタを実現するため、液晶能を有する高分子半導体材料が熱処理により自己組織的に配列する現象を利用し、有機トランジスタに光機能を付加する方法として、熱拡散による高分子薄膜中へのドーパント(燐光材料)の濃度勾配の制御を試みた。ホストの高分子材料には、高い蛍光量子収率を持つ有機EL材料として知られているフルオレン系導電性高分子材料に着目して、まず加熱に伴うホスト材料の電気・光学特性に関して明らかにした。 それにより、現時点で、キャリアが数nmのチャネル内で伝導するような有機トランジスタ構造において、熱処理による高分子薄膜の結晶化に伴う電気・光学特性を詳細に検討して最適化を行った。素子は、両極性を示し、適切なゲート電圧を印加する事で、正孔と電子を同時に有機半導体層に注入でき、電界発光を示し、従来の素子と比べても十分に高効率な発光が得られている。更に、ホスト材料に燐光材料であるイリジウム錯体をドープすることで、三重項励起子による燐光発光も得られている。また、膜の基本特性を明らかにし、高分子膜中へのドープ濃度勾配を比較検討するため、PL測定等の光学測定やX線光電子分光分析装置による測定を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
液晶能を有する導電性高分子材料を用いた三重項励起子による高効率な燐光発光高分子トランジスタの実現を目指し、ドーパントとして用いる燐光材料の三重項準位の電子伝導に与える影響に着目した素子作製とデバイス評価を行なう。横方向の伝導は、有機発光トランジスタ特性から、縦方向の伝導は、有機EL特性から、それぞれ分離して検証する手法の確立を目指し、1.導電性高分子薄膜への熱拡散による燐光色素材料のドープ濃度勾配の確立2.横型素子である有機発光トランジスタによる横方向伝導の検討3. 縦型素子である有機EL素子による縦方向伝導の検討に関して、平成23年度の研究を更に推し進め、下記の研究についても検討を行う。4.燐光材料ドープ導電性高分子薄膜を用いた燐光発光高分子トランジスタの作製と評価:平成23年度に得られた知見をもとに、燐光材料ドープ導電性高分子薄膜を用いた高効率燐光発光高分子トランジスタの実現に向けて、検討を行う。また、ゲート電圧の掃印によるソース・ドレイン間での発光サイトの位置や動的変化の観察から、三重項準位が関与する有機薄膜中における電子伝導に関する情報を、光学的情報として得て、解析から高効率化に向けての知見を得る。また、ソース・ドレイン電極からの注入によっても、発光効率や発光強度が影響を受けるため、有機発光トランジスタ特性の主に銀電極とITO電極を用いたソース・ドレイン電極依存性に関しても検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
備品・消耗品類は、定常的に必要な有機材料、金属電極材料、装置の維持や新規に導入する装置に伴い付加的に発生する消耗品、部品などの購入のために必要となる。旅費類は、研究成果の発表や研究討論のための会議等に出席するために必要不可欠である。研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行し、当初、予定通りの計画を進めていく。
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