単一光子や量子もつれ光子対は量子通信のエンジンともいわれるほど重要な資源である。現在では自己形成量子ドットなどに励起子を局所空間に閉じ込めることによって理想的な2準位系を作り、光子やスピンにかかわる新しい物性を発現させることが可能になってきている。本研究ではわれわれが開発したGaAsへの窒素のデルタドーピング技術を利用して2次元配列された窒素束縛励起子を作製し、0.85μm光通信バンドで動作する光子源の開発を目指す。また、マイクロキャビティと融合させて輻射性能を連続的に制御する技術を開発し、高効率な面放出型光子源の実現を目指した。 具体的にはまず、デバイス性能の制御が可能な面放出光子デバイスの実現を目指して、エピタキシャル成長過程を駆使して励起子の配列ナノ構造を作製した。平成23年度にはエピタキシャル結晶成長技術によって精密に制御した窒素原子のオーダリングを利用してGaAs中に配列した窒素ペアを作製し、これら制御された窒素ペアに局在する励起子ナノ構造の局所光応答の基礎物性と外場による制御性を明らかにした。平成24年度は窒素ペアの配列構造をマイクロキャビティに閉じ込め、光学基礎特性を詳細に調べた。実験に先立って理論的な予測を行ったところ、キャビティによる光閉じ込めによって励起子-光結合速度の制御が可能であり、高効率な光子放出を実現できることが明らかになった。一方、キャビティ内窒素ペア濃度に依存した励起子とキャビティフォトンのスケーラブルな相互作用を実現するには窒素ペア濃度の精密な制御と輻射特性の解明が不可欠である。本研究では単一窒素ペアからの選択的な発光計測に成功するとともに、局在励起子特性を示す高濃度窒素ペア密度の上限(スケーラビリティーの上限)を明らかにすることができた。
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