本研究は,強磁性材料の低温分子線エピタキシー(MBE)成長技術を活用して,Si基板上に様々なスピン生成効率を有する微小スピン注入電極を自由に面内配列する新技術を創成し,多様な性能を有するスピントロニクス素子を同一基板上に集積する技術を構築することを目的としている. 本年度は,昨年度検討したFe3Si/Co2FeSiの2層構造を,さらに低温である「室温」で作製し,詳細な微細構造評価と純スピン流の生成・検出の実証を行なった.先ず,Fe3Si/Co2FeSiの断面TEM観察より,この2層の界面はほとんど区別がつかない連続膜になっていることを確認し,薄膜中の至るところで規則度の高いL21構造に由来する電子線回折パターンを確認した.これは,「室温形成」であっても,高品質なホイスラー合金であることを示している.次に,EDXを用いた膜厚方向の組成ライン分析の結果,Si基板上のFe3Si薄膜付近では,Fe:Siが明瞭に3:1の組成を示しているのに対し,Co2FeSi薄膜付近から急峻に組成が変化し,Co:Fe:Si = 2:1:1になっていることが確認された.これは,「室温形成」であるために,2層間での原子の相互拡散を極限まで抑制している結果である,つまり,特性の異なるホイスラー合金を,膜厚方向に高品質に形成する事ができたものと考えられる.そこで,この試料を用いて,膜厚方向のエッチング技術を利用して,微小面内スピンバルブ構造を作製するための技術を開発し,純スピン流の生成・検出を検討した.結果として,数ミクロン四方の領域に,スピン偏極率の異なる純スピン流生成源を配置した明瞭なスピン信号を観測する事に成功した.これは,同一基板上に異なるスピントロニクス素子を集積するための技術の一つとなりうる.
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