本研究では,複合エネルギーハーベスティングにより実環境の中で自立する集積回路技術を確立することを目的としている。今年度は,昨年度に引き続き,複合エネルギー獲得の具体例に関する試作評価を実施した。環境電波から直流電力を獲得する高周波整流回路において,光エネルギーを活用するための太陽電池を付加し,整流回路を構成するMOSトランジスタのしきい値を補償することによって回路の効率向上を実現した(環境電磁波エネルギーと環境光エネルギーの協調)。特に,nMOSトランジスタとpMOSトランジスタ向けの太陽電池構造を,バランスの取れた対称構造とすることにより,効率よく電力変換が可能であることを,集積回路試作評価を通して実証した。さらに,今年度は新たに,(C)「電力安定化・制御技術に関する検討」を実施するとともに,(D)「検討結果を取りまとめると共に実用化に向けての課題整理」を行った。 「電力安定化技術・制御技術への適用」に関しては,高効率に直流電力変換(電圧変換)を行うためのBoostコンバータ回路やBuckコンバータ回路はクロック信号でのスイッチ駆動が必須であるが,クロック信号生成を環境エネルギー自身で行うための技術を検討した。具体的には,太陽電池により光エネルギーを直流電力に変換し,その電力でリング発振器を駆動してクロック信号を生成する回路を設計し,集積回路試作を通してその機能を確認した。「検討結果の取り纏めと実用化に向けての課題整理」に関して,様々な環境エネルギーの中では,太陽電池による光エネルギーの利用が最も効果的であり,集積回路技術による能動素子との融合も容易であることが分かった。ただし,集積回路技術を適用して実用化するためには,太陽電池の面積コストの低減,あるいは,小面積で活用可能な手法を用いることが重要であるとの知見が得られた。
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