研究課題/領域番号 |
23656238
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤巻 朗 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20183931)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 磁束量子 / ナノブリッジ / 超伝導 / ダイオード / 整流素子 |
研究概要 |
H23年度は、再現性の良いナノブリッジを作製するためのプロセス技術の検討を行った。また、非対称ナノブリッジ(片側が直線状、反対側が括れた形状のナノブリッジ)によるダイオードの作製とそのデバイス物理についての検討も加えた。 プロセス技術に関しては、我々のグループが開発した再蒸着法の最適化を進めた。まず、Y-Ba-Cu-O(YBCO)高温超伝導体薄膜上にレジストを塗布し、そこに所望のナノブリッジのパターンを電子ビーム描画装置によって書き込む。その後現像し、そのパターンをもとにECRプラズマエッチング装置により薄膜をエッチングする。このエッチング過程でYBCO薄膜側壁が損傷を受け、超伝導性が劣化する。そこで、YBCO薄膜を再度1-2nm程度堆積する。これが再蒸着法である。これによって、損傷を受けた部分が再結晶化し、30nm程度の幅まで、超伝導性を維持することができる。実験では再蒸着する際の薄膜の組成を変化させた。その結果、通常よりCuを多めにすることで、臨界温度が上昇することが分かった。 このプロセスをもとに、非対称ナノブリッジによるSQUIDを作製した。SQUIDは外部磁場に対し電圧が周期的に変調し、この結果から非対称ナノブリッジが磁束量子を一個単位で出し入れするゲートとして働くことが確認できた。また磁場特性から、磁束量子は100nm幅のナノブリッジを数十ピコ秒で通過していることが分かった。整流素子としては十分な高速性を持っていると言える。 さらに、単独の非対称ナノブリッジの電流-電圧特性の非対称性に関し、磁場依存性、線幅依存性を調べた。非対称性は線幅が大きくなるほど、磁場が大きくなるほど、大きくなった。このことは、磁束量子が非対称ナノブリッジにおいて括れた側からのみ侵入していることを意味している。形状の最適化やプロセスの高度化により、今後はさらなる非対称性の向上を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
YBCO薄膜によるナノブリッジの作製プロセスがある程度確立され、比較的再現性良く素子が作製できるようになった。また、デバイス物理もある程度明確となった。整流素子としての性能は現時点では不十分であるが、改善すべき報告性が明確になったことで、今後の性能向上は期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
単独のナノブリッジからナノブリッジの直並列回路へと転換する。その際、アンチドットが必要となるが、その最適形状を実験によって探索する。また、ナノブリッジ自身に、磁束量子の通りやすいところを形成し、発生電圧を大きくする工夫をする。さらに、自己磁場を利用するなどの回路的な工夫も加えることで、最終的には電流-電圧特性上に大きな非対称性を示すダイオードを構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は平成23年度から繰り越した経費をあわせ、次の通り使用する予定である。加工する前のYBCO薄膜については、薄膜特性の再現性の確保の観点からTheva社より購入する。また、測定は液体ヘリウム内に試料を置くことによって行う。この液体ヘリウム購入費にも研究費を支出する。このほか、成果の発表などの旅費にも使用する。
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