H24年度は、非対称ナノブリッジ(片側が直線状、反対側が括れたKの文字状のナノブリッジ)の特性向上、非対称ナノブリッジの並列化による整流特性向上、デバイス物理の解釈に向けた数値解析を行い、超伝導集積回路の電源回路への適用可能性を検討した。 非対称ナノブリッジでは、括れ部分から磁束量子(アブリコソフボルテックス)がナノブリッジ内に進入し、その後ブリッジを横切ることで電圧が発生をする。発生電圧は、磁束量子の走行速度に大きく影響を受ける。そこで、磁束量子の走行路を意図的に作り、かつその走行路での磁束量子の移動度を高めることを試みた。具体的には、電子ビームによって走行路に酸素欠損を生じさせ、粘性抵抗成分を軽減した。その結果、磁束量子の移動度を反映する微分抵抗値の増大を得た。また、臨界電流値も低下し、もう一つの課題であった発熱密度の問題も解消した。 この手法をもとに、非対称ナノブリッジの2並列素子であるSQUIDを作製した。このSQUIDでは、構成する2つのナノブリッジの線幅を変えることで、SQUIDとしての非対称性も取り込み、より理想的な整流特性を得られる工夫をした。しかしながら、現時点では歩留まりが十分ではなく、SQUIDの非対称性が顕著に見える特性を得るに至っていない。電子ビームによる損傷の再現性に課題を残すものと考えられる。 さらに、時間依存ギンツブルグ-ランダウ方程式を数値解析することで、磁束量子の運動の超伝導薄膜形状依存性を調べた。その結果、磁束量子に伴う渦電流の歪が大きくなる形状で磁束量子の動きが加速されることが分かった。今後はこれらの知見をもとに、整流回路の実現を目指す。
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