本研究は、情報セキュリティーにおいて利便性と安全性の相反する要請を実現させるために、視覚復号型暗号技術の一つとして、高次複屈折による照明波長選択性を利用した新規なセキュリティーデバイスの有効性を明らかにすることを目的とした。具体的には、①複屈折位相差が一波長を与える複数枚の波長板と2分の1波長板を積層化させた高次複屈折モザイクパターンデバイスを作製すること、②直交もしくは平行ニコルで観測したとき設定照明光源波長のみで暗号透過パターンを観測できること、③高次複屈折材料として光硬化液晶を利用して電子的に情報パターンを書き込む技術を確立することによって、次世代視覚情報暗号化デバイスの基礎を確立する。 以上の目的をもとに研究を遂行し、以下の成果が得られた。 1)大きさが5mm角の1波長および2分の1波長の高分子フィルム波長板を複数枚用いてn波長積層画素と(n+1/2)波長積層画素を作製した。次に、これらの積層画素をモザイク状に暗号化文字パターンを2次元平面内に配置した。ここで、nの最適な数値を求めるため、ミ ューラー行列によるシミュレーション解析を行い、透過分光スペクトルのランダム性を確保できる条件を明らかにした。2)直交する直線偏光子(直交ニコル)の間に製作したモザイクパターンを挿入して、各画素の分光透過特性を分光計によって測定した。その際、2種類の波長積層画素について照明光源波長に対する透過率を明らかにし、波長板の設計波長から20nmずれた波長においてコントラストが0.7を超えるのに必要な波長板の最小枚数を実験的に求めた。これによってコントラストの低下を防ぎつつパターンのランダム性を保証する知見が得られた。3)紫外線硬化樹脂の紫外線照射量に対する複屈折量を校正し、それに基づいて2つの照射量によるパターニングを行った情報デバイスを作成し、セキュリティ性能を有すること明らかにした。
|