研究課題/領域番号 |
23656251
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
廣川 二郎 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (00228826)
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研究分担者 |
永妻 忠夫 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00452417)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | アンテナ / ミリ波 / テラヘルツ / 先端的通信 / 情報通信工学 |
研究概要 |
60GHz帯モデルからのスケールダウンを基本にして設計周波数350GHzで設計した。銅薄板の厚さの種類は限られているため0.2mmとした。スロットの角の曲率半径は銅薄板の厚さの80%とする必要があるため0.16mmとした。整合用の金属壁の厚みもエッチング精度の制限から0.2mmとする必要がある。これらを考慮し形状を決定した。エッチング銅薄板積層拡散接合を用いて16x16素子アレーを製作した。形状変化による周波数変化を確認するため,設計値そのままのもの,すべての形状値を10um増加あるいは10um減少させたものの3種類を製作した。利得の周波数特性を測定したが,設計値と実験値は一致しなかった。しかし,30umのオーバーエッチングを仮定して形状値を変化させて再計算をしたところ,設計値そのままの形状のアンテナでの実験値とおおむね良好に一致した。形状値を10um増加あるいは10um減少させた場合の周波数特性の変化も実験により確認できた。損失を含めたアンテナ効率に関しては,形状値を10um減少させたものにおいてピーク値が350GHzで約75%(利得は約31.5dBi)と高い値が得られた。334GHzから354GHzまでにわたりアンテナ効率40%以上を実現した。 光技術を用いた300GHz帯送信機に本アンテナを接続し,10Gbpsの無線データ伝送実験を行った。中心周波数338GHz,送受アンテナ間距離50cm,送信電力20uW,光検出器電流5.5mAのときにビット誤り率10E-11を実現した。ビット誤り率が10E-10以下となる中心周波数範囲は10GHzあり,この結果から本アンテナによる最大可能伝送速度は約17Gbpsと見積もられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
350GHz帯でアンテナを試作したが,現在は利得が約32dBの16x16素子アレーだけを試作している。設計値と実験値には30umのオーバーエッチングによると考えられる差異がみられるため利得3dB低下比帯域が現在のところ約6%となっている。しかし,ピークのアンテナの効率は約75%と極めて高い値が得られており,銅の導電率を5.8x10E7S/mと仮定した計算値とほぼ一致しており,エッチング銅薄板積層拡散接合技術による電気的接合が良好であることが確認できた点は大きな成果といえる。また,10Gbpsのデータ伝送実験を行い,ビット誤り率が10E-11程度とほぼエラーフリーといえる良好な結果も得られ,さらに,現在の段階で最大可能伝送速度が約17Gbpsと,10Gbpsを超える超高速無線伝送の実現可能性が示されたことも大きな成果である。これらの成果に対する発表を2011年12月にアジアパシフィックマイクロ波国際会議で行い,約500件の発表のうち2件に対して授与されるアワードの1つに選ばれており,高い評価もすでに受けている。
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今後の研究の推進方策 |
設計値と実験値には30umのオーバーエッチングによると考えられる差異がみられるため,その差異の除去が次年度の最大の課題である。銅薄板積層拡散接合の1回の製作費が100万円弱とかかるため,予算の残額を考えると1回の製作に限られる。アンテナの動作を考えると並列給電回路層の製作精度が重要であるため,エッチングより製作精度がでるワイヤーカッターにより並列給電回路層の製作を考える。 上記の改良型のアンテナにより、15Gbpsを超える無線伝送をデモンストレーションするとともに、近距離無線など実利用に向けた課題を実験的に明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の執行額に残額が生じた状況については,今年度の残額だけでは再度のアンテナ試作ができず,次年度に回して一体で使用することとしたためである。 次年度の研究費は,銅薄板積層拡散接合アンテナの製作に使用する。
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