研究課題/領域番号 |
23656275
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
小木 美恵子 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (50410288)
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研究分担者 |
得永 嘉昭 金沢工業大学, 工学部, 教授 (00072174)
内田 恵理子 国立医薬品食品衛生研究所, 遺伝子細胞医薬部, 研究員 (80176685)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | レーザ誘起応力波 / 遺伝子導入 / 複雑系 |
研究概要 |
本課題は3年間であり、研究目的は、1)応力波が細胞に及ぼすメカニズムを物理学的に検証し,さらに2)細胞が受ける物理的損傷を染色体レベル、遺伝子レベルで検証し,応力波による遺伝子導入の安全性の評価を行うことである。平成23年度は1)LIEISWを安定して発生させる最適な材料と条件を決定した。固体素子は黒色ゴム:0.5mm、接着剤はエポキシ系接着剤、透明高分子膜としてポリエチレンテレフタレート(PET) 1mm。光源はQスイッチNd:YAGパルスレーザ(LAB-130)の第2次高調波の532[nm]を使用した。最大ピーク出力は200[mJ/pulse]、FWHM15[ns]、繰り返し周波数10[Hz]である。照射ビーム径は約2[mm]に固定した。2)使用した細胞はヒト培養細胞であるHeLa細胞およびHL60細胞である。レーザフルエンスの強さと細胞の生存率には負の相関があったが、1.44 J/cm2と2.4 J/cm2では有意差がなく、4.8 J/cm2の生存率が他のサンプル群と比較して有意に減少した。非ウイルス法遺伝子導入の代表であるエレクトロポレーションによる遺伝子導入法ではHL60細胞において、生存率が20 %~10 %と低く、実用化が困難であったが、LISWでは80 %以上の生存率を示し、安全な導入法であることを証明した。また、HeLa細胞において、上記の条件でレーザフルエンス2.4 J/cm2でpEGFPを用いた遺伝子導入では、約3%の細胞がGFP陽性であり、遺伝子導入を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23 年度 LIEISW を用いた遺伝子導入の最適化条件を決定するについては、概ね終了している。熱弾性定数が大きいレーザ光吸収材料として黒色天然ゴム(NR)シート(10mm角)を用い、その上に低出力可視光レーザでもEISWが発生できるようにプラズマ閉じ込め用透明材料としてポリエチレンテレフタレート(PET)を接着したConfined型レーザ誘起発生素子を作製した。対照として、PETを接着しないDirect型レーザ誘起応力波発生素子との比較実験を行った。この結果ではConfined型素子の方がDirect型素子と比べて最大ピーク強度が約2.8倍、半値全幅が約1.3倍に増加した。また最大ピーク後に約0.8μsの平坦部がConfined型素子のみに形成されていた。このplateauは、残留プラズマに起因する応力波成分による効果と思われ、細胞内に遺伝子を効率よく導入するために役に立つと我々は考えている。細胞への影響としては、HeLa細胞は接着性の細胞であるが、LIEISWを照射後に細胞がシャーレから剥がれる現象が観察された。Direct型の場合、レーザフルエンスが上がっても剥がれ率はほとんど変わりなかった。1.44 J/cm2は約3%、2.4 J/cm2は約6%、4.8 J/cm2は約5%であったのに対し、Confined型の場合、レーザフルエンスが上がっていくと剥がれ率も上がり、正の相関が見られた。1.44 J/cm2は約8%、2.4 J/cm2は約15%、4.8 J/cm2は約50%であった。また、1.44 J/cm2と2.4 J/cm2、2.4 J/cm2と4.8 J/cm2で有意差があり、減少していた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)LIEISWが細胞に及ぼす遺伝学的影響の解析として波形や大きさと細胞毒性,導入プラスミドの大きさによる導入効率,さらに導入後の細胞の遺伝的安定性を評価する。数的異常に関してはギムザ染色による染色体数を、構造異常に関してはG-band法による核型分析を行う。(2)LIEISWの構成成分である衝撃波と電界パルスが細胞に果たす役割を明らかにする。平成24年度から、新たに研究分担者として會澤康治先生が加わり、LIEISW発生素子の開発を行い、LIEISW発生理論で未解明な部分を明らかにする。これまで圧電体へのレーザ照射により複合的におこる物理現象を材料工学の視点から細胞膜に及ぼす影響を調べた研究はほとんどないため、LIEISWによる遺伝子導入の理論的解明を試みる。(3)LIEISWによる遺伝子導入の実用化のために高い細胞生存率と高い遺伝子導入効率の実現を目標に、開発した素子を使って細胞の種類(接着細胞、浮遊細胞)ごとの細胞生存率と導入効率を実験的に検証し、細胞生存率を維持したまま遺伝子導入効率の向上が期待できる素子構造やレーザ照射条件を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度にレーザ用ミラーを購入予定だったが、適当なものがなく、104,000円の繰越が発生した。平成24年度は請求額1,100,000円で、繰越金を含めて1,204,000円で、本研究を遂行する。主な使用用途は物品費であるが、旅費とその他として論文発表代となる予定である。
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