本研究では、コンクリートに生じたひび割れをコンクリートが自律的に修復するひび割れ自己治癒コンクリートにおける自己治癒組成物の効果を長期に温存するための造粒技術の開発を行った。これまで、一般的な水セメント比配合において、水和反応がほぼ収束した長期材齢でも、ひび割れ発生後、早期にひび割れが自己治癒する膨張材-膨潤材-化学添加剤混合系の自己治癒材料を開発してきた。しかし、体積の約7割を骨材が占める通常のコンクリートでは、流速が一定程度以上早い場合に実用化に足るだけの十分な自己治癒性能を付与するまでには至っていなかった。水セメント比が高く有効成分を長期に亘り温存することが難しいことと、骨材ぎわを選択的に通るひび割れをペースト部分から湧出する有効成分で閉塞させるには一段と高い治癒力が求められたためである。そこで、自己治癒組成物を造粒化することで、内部の有効成分を長期に亘って温存する安価な準カプセル化技術を確立し、ある程度材齢が経過したコンクリートにおいても確実にひび割れ自己治癒性能を発揮する技術の開発を目指した。その結果、自己治癒組成物にバインダ材料を加えて造粒することにより、コンクリート製造時における自己治癒組成物と練混ぜ水の接触機会を抑制し、施工時のフレッシュ性状の低下を抑制しつつ、ひび割れ自己治癒効果を長期にわたって温存する技術を開発した。これにより、セメント系材料の化学反応を有効に利用した化学的効果に、造粒による物理的な簡易カプセル効果を組み合わせた効果の高いひび割れ自己治癒技術の基礎が整った。また、対象となる構造物の要求性能、環境条件・使用条件および求められる費用対効果を考慮して、コンクリートに対して様々なレベルの自己治癒性能を付与できるテーラーメイド自己治癒コンクリートシステムの確立に繋げることが可能となった。
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