研究課題/領域番号 |
23656285
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
京谷 孝史 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00186347)
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研究分担者 |
加藤 準治 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (00594087)
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キーワード | 応用力学 / 構造最適化 / トポロジー / 制振 / シミュレーション工学 |
研究概要 |
本研究は,低降伏点鋼ダンパーという,低降伏点鋼材の塑性変形性能を利用した制震架構に対し,新たに異なる2種類の塑性材料を用いることで,構造物にかかる地震エネルギーを最大限吸収できるようにするための最適化理論・手法の開発を行うものである. 初年度は,最適化を実施するために必要な感度解析の定式化を行ったが,その誤差が発生するメカニズムを明らかにするために,まずは簡易な材料モデルとして線形弾性体を想定した単一材料のトポロジー最適化のプログラムを作成した.構造は,パイロット的に単純な片持ち梁から始め,CCARATという自前のプログラムを用いて有限要素解析と構造最適化を実装した. 昨年度は,単一材料と複合材料の塑性領域まで考慮した最適化問題を定式化し,構造のエネルギー吸収性能を最大にするトポロジー最適化の開発に成功した.ここでは感度の高精度化に重点を置き,差分による誤差を含まない解析的微分法という感度解析手法を提案した.また,次のステップとして感度誤差の発生するメカニズムを検証した. これら一連の作業は,京谷・加藤が協働して行った,具体的には,京谷が極限解析で培った最適化理論に関する豊富な知識を活かしてそのアルゴリズムを明確にし,加藤が構造最適化問題に関する経験をもとにそれ理論的に紐解き,プログラムに実装した.ただし,塑性化が大きく進展するような過酷な荷重載荷状態においては,その感度の誤差が大きくなることが確認されており,これを補正する手法が開発できれば,学術的,工学的にもかなり価値の高いものが成果として加えられるものと思われる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,数値解析技術を基本として,有限要素法および力学・理論の総合理解と手法の開発を主軸におくものである.そのため,自前で数値解析や構造最適化の計算プログラムを作成する必要がある.本研究では,その数値計算量が膨大となるため,より無駄のないプログラムを作成することが重要である.これまでの達成度が計画以上に進んだ理由は,京谷,加藤が培った理論と技術によって,効率のよいプログラム体系を研究当初から構築できていたことである.これによって,無駄な作業を大幅に省くことできた.また,理論・手法の妥当性と実装したプログラムの検証についても早い段階から行い,より精度の高い解析結果を得られるようにしたことがプログラム修正作業などの手戻りを減らしたという一面もある.計算機のスペックを上げ,プログラム作成支援ソフトなどがあればさらに効率よく高精度なプログラムを開発することができるものと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,これまでに得られた成果を使って本格的な大規模数値解析実験を行う.数値解析は,プリ・ポストプロセッサ(GID)を利用して,入力データを作成する.当該計算では数値計算量の多さから2次元平面解析を行う.構造モデルは,繰返し載荷のせん断試験を想定して行う.ここでは,2種類の鋼材として高強度炭素鋼(高強度低靱性)と低降伏点鋼(低強度高靱性)の両方を用い,エネルギー吸収性能最大化を意図したトポロジー最適化を行う.そのエネルギー吸収性能は,その荷重-変位曲線が囲む面積として定義する. ここで得られた計算結果は,京谷・加藤が評価・考察し,力学的な観点から解の妥当性を検証する.なお,最適化問題1ケースの解析時間は,節点自由度の大きさ,設計変数の数,最適化の反復計算回数等によるため,現段階では未定であるが,これまでの経験より1~数か月単位になると思われる.そのため,解析の途中で停電などによる予期せぬトラブルに見舞われることも想定されるため,それに対する対応策を考えておく必要がある. 本研究では,そのような状態に見舞われても,現時点の計算の1つ前の最適化ステップのデータを保存するようにプログラミングし,計算機が停まった後でもそこから最適計算を再開することが可能なように準備しておく.得られた成果は,国内外の学会および学術論文によって積極的に報告する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度の研究費については,計算プログラムの高精度化およびデータ保存(ハードディスク)と研究成果発表用としての論文投稿費,学会参加費等に使用する予定である.まず,本研究で開発したプログラムについては,非常に複雑な構成となっており,プログラムエラーなどを検出することが困難である.そのため,本研究の集大成としてプログラム作成支援ソフトを導入することで,より精度の高いプログラムへと改善する.また,本研究で取り扱うデータのサイズが大きいため,それに適応に対応できるハードディスクの準備が必要である. 本研究で得られた成果は,英文の学術論文や学会を含め積極的に発表する計画であるため,投稿料や旅費にも充てる予定である.
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