研究課題/領域番号 |
23656307
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松永 信博 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (50157335)
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研究分担者 |
千葉 賢 四日市大学, 環境情報学部, 教授 (90298654)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 沿岸海域環境学 / 有明海環境異変 / 諫早湾干拓事業 |
研究概要 |
九州農政局が提供している2003年から2008年の水質データを解析し,塩淡成層の発生機構,低塩分水塊の風応答特性,低酸素水塊の発生・発達・消滅プロセス,風による低酸素水塊の応答特性を詳細に調べ,これまでの解析結果の妥当性を確認した.また,有明海奥部に流出する河川水の流動および調整池から南北排水門を通して排水される淡水の動態についても明らかにした. 大気流動モデルとしてメソスケール気象モデル(WRFV3.0)を用いて,解析対象期間における有明海周辺地域の風のシミュレーションを行った.海上風シミュレーションでは,広領域(領域1)として九州を中心とした約1,000km四方の領域を計算領域に設定し,計算領域を約100km四方の狭領域(領域3)まで順次3段階に落とす3重ネストを用いた.また,計算には2ウエイネスティング手法を用いた.領域1の植生,土地利用および標高データの作成には,USG30秒のメッシュ値を用いた.領域2~領域3における植生,土地利用データの作成には国土地理院数値情報1/10細分区画土地利用を,標高データの作成には国土地理院数値情報50mメッシュ値を組み込んだ.得られた解析結果を有明海周辺のアメダスデータと九州農政局が諫早湾中央で計測している海上風データと比較し,解析結果の妥当性が確かめられた.さらに,海上10mの高さの平均風速から水表面に作用する風応力を算定する経験式を用いて,海表面に作用する風応力の時・空間分布を求めた.その応力分布を既に構築している有明海3次元流動モデルの海表面に作用させ,流動シミュレーションを行った.有明海における物質輸送パターンは風応力を作用させるか否かによってに大きく異なることを明らかにした.また,本研究によって,調整池から排水された淡水が諫早湾内においてどのような流動パターンを取るかが明kとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)本年度の研究の第一目標は,九州農政局が提供している2003年から2008年の水質データを解析し,塩淡成層の発生機構,低塩分水塊の風応答特性,低酸素水塊の発生・発達・消滅プロセス,風による貧酸素水塊の応答特性を詳細に調べることにあった.さまざまな角度から解析した結果,諫早湾内では北寄りの風と南寄りの風が卓越し,北寄りの風が連吹する場合,底層付近の高塩分・低酸素水塊は湾口側に輸送され,表層付近の低塩分・高酸素水塊は湾奥に輸送されることを明らかにした.逆に南寄りの風が連吹する場合,底層付近の高塩分・低酸素水塊は湾奥側に輸送され,表層付近の低塩分・高酸素水塊は湾口側に輸送されることを示し,南寄りの風が連吹する場合は,湾奥部において低酸素水塊の湧昇が引き起こされることを明らかにした.また,低酸素水塊は,諫早湾の小長井沖付近で発生し,湾全体に大規模化する特性も明らかにした.(2)本研究で掲げた第2の目標は,大気流動モデルWRFV3.0と我々が既に構築している有明海3次元流動モデルとの結合であった.WRF3.0を用いて有明海上を吹く風の場を再現し,海表面に作用する局所的,時間的に変化する風応力分布を求めた.それを3次元流動モデルに組み込むことにより諫早湾内の低塩分水塊の流動特性を高精度に再現できるスキームを開発した.また,調整池から排水された淡水は,湾内の大規模で強い成層構造にはほとんど寄与することなく,約1潮汐間で諫早湾から有明海に流出することを明らかにした.これらの研究成果は,諫早湾内の流動特性を明らかにしたもので,今後行われるであろう開門調査に大きく貢献するものである.以上の理由から,本研究プロジェクトは当初の計画以上に進展していると判定した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)諫早湾内の塩淡成層構造と解析結果との比較検討(松永)大気・海洋結合モデルで得られた解析結果と九州農政局によって得られた諫早湾内の塩分観測結果を比較し,解析結果が観測結果に良く適合するように,モデルパラメータのチューニングを行う.特に,海上10mの平均風速から水表面に作用する風応力を算定ための経験式として数多くの提案がなされており,モデルパラメータのチューニングを行う必要がある.最適モデルパラメータを決定した後,観測結果と解析結果との適合度を求め,大気・海洋結合モデルの妥当性を検証する.海洋モデル(風応力を作用させないモデル)による解析結果と大気・海洋結合モデル(風応力を考慮したモデル)による解析結果を比較することにより,低塩分水塊の風による流動特性を明らかにする.また,1級河川から流出した淡水が,有明海奥部及び諫早湾内に流入するプロセスを明らかにし,風による効果を定量的に評価する.諫早湾内における塩淡成層の発生・発達・消滅プロセスが観測結果をどの程度再現しているかに関しても明らかにする.(2)有明海で生起する塩淡成層構造のシミュレーション(松永・千葉)有明海においては,定常的な水質観測は行われておらず,解析結果と観測結果を直接比較することはできない.従って,諫早湾内の観測結果を用いてチューニングされた,最適大気・海洋結合モデルを用いて解析する以外の方法はない.ここでは,最適モデルパラメータを組み込んだ大気・海洋結合モデルを用いて解析し,有明海における筑後川起源水の流動特性を明らかにする. また,風応力を考慮しない海洋モデルを用いて得られた結果と比較し,有明海に流出した河川水の風による応答特性を明らかにする.さらに,有明海における塩淡成層の消長過程を再現し,有明海における低塩分水塊と卓越風が塩淡成層構造にどのような影響を与えるかについて明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,主として九州農政局が測得している膨大なデーを解析する.また,WRF3.0を用いて解析することにより得られた風応力分布を3次元流動モデルに組み込んだ大気海洋結合モデルを用いて様々なケースのシミュレーションを行い,観測結果との比較を行う.このため,予算の大部分を計算機使用料,データ解析補助費,数値解析補助費に使用する予定である.また,これまでの研究成果は来る諫早湾開門調査において有益な情報を与えるものであり,学会等の講演,発表を通して情報発信していく予定である.従って,旅費も計上している.昨年度各費目の予定支出の変更により生じた繰越金660円は,今年度予算に組み込み,遺漏なく予算執行する予定である.
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