研究課題/領域番号 |
23656319
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井料 隆雅 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10362758)
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研究分担者 |
朝倉 康夫 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (80144319)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 交通ネットワーク / 情報ネットワーク / 交通行動 |
研究概要 |
本研究では交通ネットワークと情報ネットワークを統合した「交通・情報ネットワーク」を定式化しその特性を数理的に分析する.交通主体の所持する情報は交通行動(目的地選択等)の決定の際の重要な要因であり,その伝播メカニズムは交通行動決定に大きく影響する.いっぽうで,情報は物理的に近い人やもの(近所や職場の知人,看板等)からも多く伝播するため,交通行動から情報取得への逆方向の影響も重要である.これは交通主体が行動する「交通ネットワーク」と情報が伝播する「情報ネットワーク」が相互作用することを意味する.本研究ではこの特性を分析し,交通・情報ネットワーク上で情報がどのように局在化するかを調べる.その成果は人口の一極集中のような社会的に望ましくない需要の集中現象の緩和に役立つことが期待できる. 平成23年度は「情報ネットワーク内の各要素の特性の数理的な定式化」と「交通ネットワーク内の各要素の数理的な定式化」を行なった.あわせて,これらで構成されるシステム全体の挙動を解析的・数値的に分析するための準備を行なった.前者については,おもに,情報ネットワーク内の要素として特に交通行動主体およびそれらの情報ネットワーク内での相互作用の数理的定式化を行なった.後者については交通ネットワーク内の混雑現象の定式化を行なった.定式化の際には2通りのアプローチをとった.すなわち,主に数値シミュレーションへの適用を想定した精緻な形式のモデルと,数理的なふるまいを解析的に解くことを想定した簡便な形式のモデルである.双方の関連性は,現実の現象の再現性と,数理的なふるまい(動学的安定性など)を考慮しつつ評価するべきであり,その課題について平成24年度の研究内容と関連させつつ整理した.動学挙動分析についても,この関連性を考慮しつつ分析を開始し,また,精緻な形式のモデルの動学挙動の扱いについて検討課題を整理した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究計画では平成23年度は「情報ネットワーク内の各要素の特性の数理的な定式化」と「交通ネットワーク内の各要素の数理的な定式化」「動学挙動分析」の3つについて行う予定であった.このうち前者2件についてはおおむね達成している.一方,動学挙動分析については,特に精緻なモデルの扱いについて,研究を進行させるにつれて数理的困難性があることが明らかになってきており,その対応を検討することに一定の時間を要したため,この部分については当初研究計画から若干の遅れがある状況である.ただし,この点については,現状の見通しとしては平成24年度の早期に解決が見られるものと考えており,計画全体には大きくは影響しないものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は平成24年度(今年度)が最終年度である.今年度は,動学挙動分析についてまず完了させ,その後,この結果を含めて,平成23年度の結果の評価とモデルの見直しを行う.この際にはワークショップやヒアリング等の機会を通じて,他の研究者からのレビューも併せて受けることを予定している,本研究は直接的な実証的検証を含まないため,他の研究者のレビューにより,現実社会の現象と大幅に乖離したモデルを最終成果物としてしまうことを回避することを予定している.完成したモデルと分析結果は実社会の課題に適用する.実社会の課題としては,たとえば避難行動の際に情報伝達と交通混雑の相互作用が与える影響,新しい交通手段の導入の際の普及現象,観光地や商業地における目的地選択問題などのうち,完成したモデルと親和性が高いものを採用することを想定している.もし,当初の意図どおりの結果が出た場合には,社会的に望ましくない需要の集中現象(人口の一極集中,中心市街地の空洞化,いわゆるストロー現象など)を緩和する施策を,完成したモデルを活用して提案することを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24度に計上している研究費のうち一部は高速計算機の購入のために利用する.これはケーススタディの際の動学挙動分析に用いる(平成23年度における分析では既存の設備を使用するため計上していないが,ケーススタディではネットワークサイズを大規模にし,多くの場合についての計算を行うことが予想されるので,今年度で計算機購入費用を計上した).平成23年度の結果の評価と見直しのために国内外の専門家からのヒアリングの機会(ワークショップ参加あるいは開催,あるいは個別のヒアリングなど,ヒアリング対象の研究者の状況に応じて設定)を設ける予定であり,その際の旅費等を計上している.成果は土木計画学研究発表会や交通工学研究会等の学会,および国際学術雑誌での発表を予定している.そのほか,動学挙動分析の際のプログラムを改良するために技術補佐員の支援を得る予定であり,その雇用のために研究費を使用する予定である.
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