ドライバーがある区間を走行し終えた時に感じる走行環境の質(記憶効用)は,時々刻々直面する局所的な走行環境に対する評価(瞬間効用)が累積して形成されたものと考えられるが,その形成構造は不明である.本研究では,局所的な評価である「瞬間効用」から全域的評価である「区間効用」が形成されるメカニズムを工学モデルとして構築することを目的としている. 25年度は,前年度までに開発した「確信度更新モデル」の知見を基礎に,当該モデルに残る2つの課題,すなわち,①評価値の構成要素である迅速性に関する評価が奏功履歴を考慮せず地点速度のみで表現されている,②区間を走行し終えた時点でも当該区間の走行サービスの質に対する評価値が一意に定まらない,といった実態と必ずしも一致しない特性を解決すべく,到着遅れに対するストレスと事故のリスクに着目した新たなモデルを開発した.遅延ストレスは,区間始端から区間内各地点までの所要時間と当該地点における走行速度から予測した区間終端における目標到着時刻からの遅延時間分布と目標到着時刻からの乖離に対する(不)効用関数から求めた期待(不)効用を算定し,これに瞬間効用モデルにおける事故危険度の評価項を加えたものとして定式化される. ドライビング・シミュレータを用いた室内実験を行い,様々な条件を設定した道路区間を2区間ずつ被験者に走行させて二項選択データを収集し,離散選択モデルを用いて開発したモデルのパラメータ推定を行った.得られたパラメータの値は被験者により異なるものの,総じて昨年度開発したモデルに比べて高い論理的整合性と現象説明力を有することが確認された. 以上,ドライバーが有する記憶効用の形成メカニズムの描像を提起したとともに,道路の整備・運ほぼ達成された用のための評価指標として広く活用する基礎を開いたという点で,研究課題の目的をほぼ達成し得たものと考えている.
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