収益用建築物に着目した事業継続性の観点からの首都東京の耐震性能分析の確立を目指し、このために必要な基礎資料を得ることを目的に、実際に存在する建物の許容限界修復費用に関する分析研究を次の手順で行った。①不動産への投資と収益の観点から定まる、建物経営上の破綻に対する地震時の単位床面積当たりの許容限界修復費用(Bmax/m2)の算定式を定義した。②これに基づき、J-REIT所有の「住居」および「事務所」用途の不動産1193物件についてこれを実際に算出し、不動産価値ならびに、延床面積・階数および、土地単価の異なる不動産間の相対比較を行った。 この結果、次のことが考察された。①不動産価値(取得価格)が大きな物件のBmax/m2は、小さなものと比較し、小さく抑えられる傾向にある。②延床面積および階数が大きい物件のBmax/m2は、小さなものと比較し小さく抑えられる傾向にある。③土地単価の大きい物件のBmax/m2は、小さなものと比較し、小さく抑えられる傾向にある。 これらのことから、大規模(延床面積・階数が大)で立地条件の良(土地単価が高)い、経済活動上重要な役割を果たしていると考えられる不動産の許容限界修復費用Bmax/m2が、予想に反してむしろ小さくなりがちであることが明らかとなった。このような結果を生む要因に、不動産投資における次のような基本構造があると思われる。①規模の大きい物件では収益率が比較的低いものであっても許容される。②経済的なリスクの低い物件では収益率が比較的低いものであっても許容される。 以上の研究から、経済活動維持の観点から考えた都市の耐震性に関する次のことが示されたと考えている。①経済活動上重要な役割を果たしている建築物の脆弱性、②都市の発展に伴う大地震に対する脆弱化の進行。
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