本研究の目的は、北関東の伝統的町並みの二つの特色(α多様なタイプの町家から構成されている、β現況では伝統的町家の残存率は高くない)を説明する以下の仮説を検証することにある。すなわち、i)北関東の町並みはおよそ戦前期頃まで、A江戸型家、B農家同源型町家、C簡易構造の雑舎の三種の建築により構成されており、Aは定型化が進んでいたが、B・Cには様々なヴァリエーションがあって定型を獲得する前に戦後を迎えた。ii)町並みの中に、Cが少なからぬ比率で存在し、これらの建て替えが戦後急速に進んだ。以上の事情があったため、上記α・βの町並みの特色が生じたのではないかとの仮説である。本研究はこの仮説を検証するため、遺構の現存確認・実測調査をもととした分析作業を行うものである。 今年度は、 (1) 昨年度から継続して桜川市真壁町における「家屋台帳」登載建物と現存遺構の比較調査を実施するとともに、(2)2011年3月の東日本大震災後の関東の町並みの被害・復興状況のまとめ、(3)つくば市北条の町並みの形成過程調査を実施した。このうち (2)では、震動による被害が県全体でみられ、土葺き瓦のずれ、大壁の崩落が広範にみられたことを確認した上で、震災前に保存・活用・修理の各局面が全てでなくとも適切に行われている建造物の場合に、復興も円滑に進みやすいという知見を得た。(3)では古代以来の歴史を持つ当該地区が、郡衙と条里制、戦国期城下町、近世在郷町という各時代の歴史的背景が反映されたエリアがずれを伴って積層していること、一方で現存する建造物自体は19世紀以後の建設のものであることも確認した。
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