研究概要 |
昨年度まで、ポンプ-プローブ計測に用いる薄膜試料としてFeやFeRh等の強磁性材料について検討してきたが、これらの材料の場合、磁化が反磁場の影響で基板面内に配向するため、大きな磁気光学信号が得られなかった。そのため、(1) 磁化が基板面に垂直に配向する垂直磁化膜を用いた試料を用いることで磁気光学信号の向上を試みた。また、他の手法によりスピン偏極率を事前に算出することを目的として、(2) 強磁性体/半導体量子井戸ヘテロ構造においてスピン注入により生じる円偏光発光からスピン偏極率を定量化した。さらに、ポンプ-プローブ計測によるスピン緩和計測を行った。以下にその詳細を記す。 (1) 、ポンプ-プローブ計測用強磁性垂直磁化膜のMBE成長 垂直磁化膜として知られるFePd薄膜をMgO, MgAl2O4, SrTiO3, BaTiO3, GaAs単結晶基板上に成長した。その結果、いずれの試料に対しても明瞭な垂直磁気異方性を観測することに成功した。さらにCu/Ni多層膜をGaAs量子井戸上に成長し、[Cu/Ni]5層膜において、CuおよびNiの膜厚がそれぞれ9nm、3nmのとき明瞭な垂直磁気異方性を観測することに成功した。 (2) Cu/Ni多層膜/GaAs量子井戸ヘテロ構造におけるスピン偏極率計測とポンプ-プローブ計測によるスピン緩和計測 上記(1)により作製したCu/Ni多層膜/GaAs量子井戸ヘテロ構造に対してCu/Ni多層膜からGaAs量子井戸に電気的にスピン注入を行い、その際に生じる円偏光発光からスピン偏極率を計測した。その結果、10Kにおいて約8%のスピン偏極率が得られた。さらに上記(1)により作製した試料に対して時間分解スピン緩和計測を行ったが、スピン偏極率を定量化するための明瞭なスピン緩和を見出すまでには至らなかった。引き続き測定条件等の精査が必要であると考えられる。
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