本研究では、パルスレーザー光照射機能を有する超高圧電子顕微鏡を用いて、レーザー光照射下での金属ナノ粒子の状態とその変化をその場観察によって解析可能にする装置改良と実験技術の開発を行い、その成果を基に、可視光域ならびに近赤外域で集光素子として期待されている金ナノロッドのレーザー光照射励起過程と挙動を明らかにすることを目的とした。 最終年度となる平成25年度は、まず照射レーザー光の試料位置での偏光方向を確認するために、Si薄膜試料を用いて表面に形成されるリップル構造の観察を行った。その結果、表面には複雑な縞模様が形成され、レーザー光をHVEMに導くパスにおいて乱反射等の影響が含まれている可能性が示唆された。その原因については年度内に解明することができず、今後の課題として残った。 さらに高分解能透過像その場観察を行い、ナノロッドの内部の原子構造の解析を進めた。照射前のナノロッドは、長軸方向が結晶の[001]方向に配向した単結晶であった。425 mJ/m2/pulseの強度で1パルス照射したとき、外形はアスペクト比が減少して球形に近づくが、内部の原子配列は照射前とは大きく変わり、多数の双晶界面や積層欠陥を含む構造へと変化する様子が観察された。さらに照射を進めると、パルス毎に内部の原子配列はすべての領域で完全に再結晶化が進み、原子が再配列している様子が観察された。一方、加熱ステージを単純な試料加熱のみでは、外形については同様にアスペクト比の減少が進むが、内部は単結晶状態を維持していることが明らかとなった。 このように、本研究によってレーザー光照射下での金属ナノ粒子の状態変化を原子分解能でその場観察・解析する実験手法が確立され、ロッド内部ではレーザー光照射によって完全に原子配列を入れ替えながら形態変化が進むことが初めて明らかになった。
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